第10話 親ばか
「因縁ですかね。」
「仕方が無い。あわせてやるけど期待するなよ。」
サタンは人間の女性を誘惑し、みごもらせる。その女性は魔女と呼ばれる。当然、その子も人間界で暮らしている。
「娘さんは社長のことご存知なんですか?」
ベルゼブブがウダに聞こえないようにサタンに尋ねる。
「知ってる。聡明な子でな、会社では他人で通した。あの子に会社を任せたかったくらいだ。だが、人間を社長にすることに他の悪魔が反対した。」
「パパ。珍しい。」
「お客さん。」
「あら、ウダさん。どうしてここに?」
サタンは娘に契約書を見せた。
「あの時言ったはずです。私は悪魔で、同僚だって。」
「どうする?お前がいやなら契約はここまでだ。」
「悪魔の契約ってそんなに軽いものじゃあないでしょ。」
「こちら、私のパパ。でも戸籍上、父はいない。いわば私は妾の子。それでもいいの?」
「僕の故郷、メキシコでは普通ですから。」
「サタンの娘でも。」
「すばらしいサタン社長の娘さんなら、きっと性格も最高に決まってます。」
「だいたい私の何が気に入ったの?」
「一緒に仕事をしていた楽しかった。この人を助けるためなら何でもできそうな気がした。それじゃ、ダメですか?」
「大体、お前はどうなんだ?」
サタンがしびれを切らせて、口をはさんだ。
「いままで、他人をそういう風に見たこと無いから。」
あっ子はモジモジしながら答える。
「一緒にいて楽しかったのか?それとも苦痛だったのか?」
「た、楽しかった・・・」
「契約書どうします?」
ベルゼブブが社長に尋ねる。
「ちょっと、貸して。」
あっ子が契約書をひょいとつまんで、ベルゼブブから取り上げた。
「困ります。返してください。」
「はい。」
あっ子は素直に、契約書を返す。
「とりあえず、様子見しよう。」
サタンは引き上げていった。ベルゼブブは契約書と一緒に渡された紙を見ていた。
『余計なことするなよ』
「ふたりの仲を何とか邪魔しないと。」
サタンはいらだっていた。
「いいんですか?娘さんにしかられますよ。」
「魔王の娘が普通の人間と結婚なんて認められるか。せめて、有名人とか金持ちとかだな、そうゆう連中をたぶらかすぐらいでないと。」
「お前は、どっちの味方なんだ?」
「もちろん、社長の秘書ですから。ですが、こればっかりは娘さんの気持ちしだいでは?」
「おまえには娘を持つ親の気持ちがわからんのか。」
「あ」いにく娘はいないので。」
「もしや、あいつ娘にいやらしいことしてないよな。」
「考えすぎですよ。」
「もし、そんなことになったらあいつは魔法使い。考えただけでも恐ろしい。」
「ねえ、ウダは父とか怖くないの?」
「なぜか社長は怖くないんだ。なつかしい感じがする。」
「私、どうしたらいいの?今まで普通の人間と付き合ったことないから。」
「僕もない。」
「言い寄ってくるのは、私がサタンの娘だと知っている魔法使いばっかり。サタンの息子になれば。強力な力が得られるんですって。私には何の力もないのに。」
「ああ。夢のようです。林さんの部屋にいるなんて。」
「あっ子でいいよ。私もウダって呼ぶから。お付き合いするからには身体検査をさせてもらうわよ。」
「いきなりですか。」
そういってウダは立ち上がると服を脱ぎ始めた。
「あのやろう。いきなりかよ。」
「社長、落ち着いて。」
部屋の押入れから覗いていたサタンが飛び出しそうになる。
「馬鹿!そっちじゃない。」
悪魔の娘と付き合うんだ。神に仕える家系では困る。悪魔にふさわしい一族か調べなければならない。
「家系図とかないですよ。どうするんです。」
「体液を交わらせればわかる。」
そういうと、あっ子は部屋のカーテンを閉めた。
「そんな、いきなりですか?心の準備がまだ。でも、嬉しいです。」
彼女は、ウダにそっと近づいた。
「それ以上やつに近づくな。」
サタンは心の中で叫び続ける。
あっ子はウダの腕から血液を抜いた。
「最近は血液から家系がわかるんですね。」
「万一の場合、型があわないと大変だからな。DNA検査ってやつだ。」
薄暗い部屋に中、皿の上で二人の血を混ぜた。
「もし、神に関係する一族なら、互いの血液が反発する。」
すぐに二人の血は互いに引かれるように勢いよく混ざった。
「神ではなさそうね。でも普通の人間でもない。悪魔に関係してる?」
「別に・・・両親は昔は熱心に神様を信じてたらしいんだけど、ある時から急に信じられなくなったって言ってた。」
そりゃ、手違いとはいえ一度は天国に送られたんだ。
「見てられん。お前、娘にやつの過去のことをばらして来い。」
「社長、ダメですよ。子供ってのは、親が反対するほどムキになって逆らうものです。」
「こうなったら俺が先に大人の魔女にしてやる。」
「血迷っちゃいけません。娘さんですよ。できるわけないでしょ。」