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9.エルエル、夜中に二人きり

 お風呂というのはすごかった。


 想像以上に大量の水を沸かして利用するという事実もなかなかのものだが、その気持ちよさは筆舌に尽くしがたい。

 はじめ若干嫌がって愚痴愚痴言っていたクーニャも、お湯に浸かるとふにゃあとなっていた。口でもふにゃあともれていた。

 エルエルが多くの人が利用しているのもわかる、と思っていたら、今日は少ないにゃーとクーニャがいうもので驚くことになった。

 確かに荷物を置く棚も半分も埋まっていなかった。

 夕方前がよく混むらしい。

 花がどうとか言っていたが、お湯が気持ちよくて覚えていない。






 さて、夜。

 宿の部屋。

 キノコとは別れて、エルエルとクーニャは二人きり。


「猫人は夜の方が元気なのにゃ」


 クーニャは目がギンギンに開いており、お風呂の前まで眠そうだったのと比べると確かに元気そうに見える。


「エルフは昼も夜も気にならない」


 森の獣は夜活発になるものも多い。

 エルフが暗くても見えるのはそれに対抗するためかもしれない。

 いや、エルフのほうが先にいたのだから違うか。


「夜平気なら、せっかくだしお話しするにゃ。何か聞きたいことはあるかにゃ?先輩のクーニャが答えてやるにゃ」


 木の台、寝台の上で胸を張るクーニャ。

 エルエルも寝台の上で胡坐をかいて、クーニャと向き合った。


「今日は何をしていたんだ?」


 キノコとクーニャが別行動だったとは聞いていた。

 だがパーティ、一緒に行動する仲間が別行動とはどんな理由があったのだろう。エルエルはそう考えて尋ねてみた。


「あー、それにゃー。まあしばらく一緒にってことなら知っといてもらわねーとにゃあ」

「言いにくいなら、」

「いにゃ。実は今日は猫の日だったのにゃ」

「猫の日?」


 クーニャの言うところによると。

 猫人はどうしても眠くて動けない時があるらしい。

 そういう日は割り切って寝るのだ。それが猫の日。


「猫人は人生を三つに分けたら二つは寝てるのにゃ。人間は一つかそれより少ないにゃ。人間の街は人間の時間で動いているから、猫人にはせわしなくて寝る時間が足りないのにゃ~」

「なるほど」


 種族によっていろいろな違いがあるのだなとエルエルは頷いた。


「信じてくれるのにゃ?」

「え……嘘なのか?」

「ほんとのことにゃ」

「だったらクーニャが言った通りなのだろう」


 エルフと人間は違う種族だから気をつけろ、とエルエルは朱の森で何度も念押しされた。

 ならば人間と猫人が違ってもなにもおかしくはない。


「人間にこれを言うと嘘だとかさぼる口実だってよく怒られるのにゃ」

「自分を参考にして考えているのだな」

「前の職場はそれで首を切られたのにゃ」

「え!? 大丈夫なのか!?」


 エルエルはクーニャの首を凝視した。傷跡は残っていないように見える。


「お仕事を辞めさせられたって意味にゃ」

「ああ、そうか。よかった。あ、よくはないか。何の仕事をしていたのだ?」

「荷下ろしギルドにゃ。船とか荷車から荷物を下ろして運ぶのにゃ」


 そんなギルドがあるのか、とエルエルは驚いた。

 冒険者ギルドのルティがギルドはたくさんあると言っていたが、想像よりたくさんありそうだ。


「力持ちなのだな」

「いやそれが、瞬発力はあるけど荷物運ぶのは人間とあんまり変わらないのにゃ。小さい荷物を担当してたのにゃ」

「そうだったのか。それで、冒険者ギルドに?」

「そうにゃ。冒険者ギルドでも荷物運びの仕事があるって聞いてたのに。戦いの練習をいっぱいさせられるのにゃ」

「そうなのか?」


 冒険者ギルドの仕事は色々あるとは聞いている。

 だが、荷物運びの仕事もあるというのは、荷下ろしギルドがあるのに? という気持ちになった。

 そして戦いの練習。

 それが仕事なのだろうか。


「あ、技術指導?」

「そうにゃ」


 冒険者ギルドで技術指導を受けることができる、とキノコが言っていた。


「エルエルも受けるのかにゃ?」

「必要かどうかわからない。明日、キノコに聞いてみよう」

「それがいいにゃ。エルエルは強そうだから要らねーかもしれないにゃ。でも周りの実力を見るのもいいかもしれないにゃ」

「そうなのか」

「あの弓を見れば、クーニャにもすげーってわかるのにゃ」


 エルエルの弓は、三十年ずっと使っている生きている弓だ。弓の木を生きたまま弓にするのはエルフの業で、エルエルと共に育ち、腕を上げてきた証が刻み込まれている。それがわかるならクーニャはなかなか鋭いのかもしれない。


「そういや、エルエルはなんでキノコって呼んでるにゃ?」

「そうすべきと思ったからだ」

「でも、キノコ食ってるときややこしくないかにゃ? あいつちょくちょくキノコ食わせてくるにゃ」

「……確かに?」


 キノコのキノコを食べる時なんだかややこしいし紛らわしいしわかりにくいなとは思った。

 キノコの方をキノコの種類で呼ぶべきだろうか。エルフの間での呼び名と人間の呼び名のすり合わせは必要だが、それはどちらにせよ必要ではあることだ。だがキノコのほうが総じてキノコと呼ぶこともあるわけだし。


「エルエル、あちしが言うのもなんだけど、そんな考え込むことじゃねーにゃ」

「そうか」




 それから、二人のおしゃべりは、隣から「うるさい夜中に騒ぐな」と苦情が来るまで続いたのだった。

 安い宿の壁は厚くなかった。


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