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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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62.エルエル、今あなたの脳内に直接話しかけています

 グーフゥは床に取り落としていた剣を拾いながら救い上げるように切り上げようとするのでエルエルは柄を力いっぱい蹴る。


 グーフゥの狙いは流れる水に包まれた吸血鬼。

 水の球体のように見えるそれを斬りつけようとしていた。


 流れる水を越えられない吸血鬼。

 流れを妨げることで脱出の隙を作ろうという魂胆だろう。


 グーフゥはエルエルに剣の柄を蹴りつけられてもほとんど揺らがなかったが、わずかに剣の向きがずれ、水の球は斬撃を免れた。


「グーフゥ。ウィスタ、これはどうすればっ」


 金属製のガントレットで殴りかかってくるのをかわせず、エルエルは吹き飛ばされた。


 ひとつ。壁に着地する。

 ふたつ。グーフゥを突き飛ばす。

 みっつ。隣の部屋に押し出す。

 よっつ。重い。

 いつつ。やっと運び終えた。

 


 今日だけですでに三度、使用した。

 こんなことでは先が思いやられる。先があれば。



「ウィスタ。どうすれば元に戻る?」


 グーフゥを押さえつけながらエルエルは尋ねた。

 腕を極めているが力が違いすぎる。

 いつ強引に脱出されてもおかしくない。


「え!?」


 突然エルエルとグーフゥが移動したように見えただろうウィスタだが、すぐに切り替えてゴーレムを動かしながら答えを返す。


「強い衝撃を与えるか、魅了より強力な魔法解除をかけるか、術者を滅ぼすか」


 グーフゥの足と頭をゴーレムが拘束する。


 エルエルは全部試すことにした。



 腰に下げていた小袋の中身をグーフゥの顔面にぶちまける。

 獣除けの刺激物の粉末だ。オーガ対策に用意していたもの。

 毒は入れてない方、のはず。


 さらに魔法の解除。力技だがグーフゥが纏う魔力をまとめて洗い流す。

 吸血鬼と精霊、どちらが強いかはわからない。


 そして吸血鬼を包む流れる水球。その内側を押し込めていく。

 流れる水を渡れないというのは、事実のようだ。そうでなければ吸血鬼が大人しくしているはずがない。

 渡れないものに呑み込まれたらどうなるか。

 やってみる価値はあるだろう。









「グーフゥさん動かなくなりましたね」


 四肢を拘束され、むせながら涙を流していたグーフゥが動きを止めた。

 いや、ピクピクと痙攣している。

 グーフゥの体の力が抜けてからずいぶん経過したのでエルエルは腕を解放した。


「解けたかな」

「どうでしょう。死にそうですけど」

「熊も悶絶するから」

「洗い流してあげて!?」







「だいぶ前に解けてたんだが」

「よかった」

「よかったですね」


 どれが効いたのかわからないが魅了は解除されたらしい。

 問題は吸血鬼である。

 まだ抵抗を感じるのだ。


「まだ抵抗がある」

「どうにか地上まで運べませんか」

「それは、できそう?」


 水流球ごと動かせば抵抗はあるものの動かせそうだ。


「あまりゆっくりしていると、オーガが来てしまいそうですね」

「早いところ施設を解体して脱出しよう」

「私は地上を目指す、でいい?」

「正直解読要員になってほしいですが、なんとかしましょう」

「急いで片付けて合流する」


 グーフゥが大剣を手に転送管理室へ。

 エルエルは水流球を動かしながら外へ向かい。

 ウィスタは転送室へ向かった。


 破壊音を背にエルエルは歩く。

 ちょうど歩くくらいの速さで水流球を動かせる。

 中身を逃がさないようにするとそのくらいが限界だった。


 管理室を破壊してしまえば機構は動かせないはずだ。

 ウィスタが転送室を確認し、重要そうな部分を解体、もしくは破壊すればさらに確実だ。


 あとの調査は、また後日。

 ここはオーガの支配領域である。

 いつになるかわからないが、ウィスタが報告すれば一考されるだろう。

 検討の結果どうなるかはわからないが。


 いや。吸血鬼の問題がある。

 古い時代の吸血鬼が巣食っていたことを考えると、調査しないわけにはいかないか。

 人間が吸血鬼をどれほど重く見るかわからないが、上位戦力のグーフゥが一睨みで無力化され、敵の戦力にされたことを考えれば、軽視できる相手ではない。

 ほかにもいる可能性がある。

 となると、ゴブリン、オーク、オーガを除く展開になりそうだ。

 ちょっとした戦争になるだろう。森は焼き払われるだろうか。

 そして人間はまたすこし支配領域を広げ――管理できるのだろうか。まあするか。そこは余計な心配だ。


『エルフ。世界滅ぼす、人間は』


 のちのことを考えながら歩いていると、頭の中に声が響いた。

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