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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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6.エルエル、引き返す

「エルエル、風呂に寄っていこうぜ奢ってやるよ」


 お金について深い思考の海に埋没していたエルエルだったが、キノコがなぜか元気づけるように肩を叩きながらそんなことを言ってきた。


「風呂? 風呂というのは暖かい水浴びだったか」

「おっと、そういう認識だったか。もっと断然いいものだ。同じだと思っていたら驚くぜ。俺もそうだった」


 そのように聞かされるとエルエルも気になってくる。

 もとよりエルエルは好奇心が強いほうだ。そうでなければ外界見聞のお役目に志願したりしない。


「わかった。ぜひ連れて行ってくれ」

「よぉし、元気になったな。いくぜ、あっちだ」


 冒険者ギルドを出る際に先達の冒険者たちのほうから、朱の森のエルフたちからよく向けられていたものと同じような視線を感じたような気がしたが、エルエルは特に気にしなかった。





「あれが風呂屋だ」

「立派な建物だな。石を加工して獣を再現している」


 キノコに連れていかれた先は、石造りの建物だった。

 石壁の内側はどれも石造りであったが、この風呂屋というのは趣が違った。

 なんというか見た目に凝っている。

 わざわざ石を削っているのだろう、柱の造形からして工夫がみられる。

 光源の魔法の配置もいいのだろう。陰影として獣や鳥が浮き出るような細工もあり、石の色一色にもかかわらず、目を楽しませてくれる。


「どっかのお城の外観を模倣してるらしいぜ」

「こうまで手をかける意味は分からないが、よくできている。見ていて面白いな。あの小鳥の表情など、本物のようだ」

「面白いってのが意味なんだろう」

「なるほど」


 人間はよくわからないものに労力をかけることがあると聞いていたが、こういうものを指しているのなら、よくわからないものと忌避するのではなく、よく調べてみるべきだろうと思った。


「さて、中に入るぞ。入口は男女で分かれてる。そっちが女用、こっちが男用。間違えたら大変なことになるから気を付けるんだぞ」

「わ、わかった」


 キノコが念を押すので、エルエルは少し緊張して女用と言われた入口に向けて足を踏み出した。

 キノコを食べながら聞いた話を思い出したのだ。

 男女のことについては過敏なくらいに警戒しておくべきだと思った。


「あ、おい!」

「なんだ?」


 キノコが慌てたように呼び止めるので、エルエルは振り返る。


「あー、えっと、そうだ。忘れ物したから一回宿に戻りたい。ついでにエルエルの宿も確保して荷物を置いてこよう。なんなら先に飯にしてもいい」

「そうか、わかった」


 お風呂に興味が沸いていたところだったが、食べ物も気になった。

 何より、キノコの言うことは今のところ間違いはなかったので、エルエルは素直にうなずいたのだった。






 エルエルの姿は、深き森のマントでほとんどが覆われている。

 深き森のマントは印象を薄めることができる。フードを深くかぶればさらに効果は高まる。

 その辺に生えている樹木のように、当たり前のもののように感じるので、注意力がよほどなければ見逃してしまう。

 そのため、弓と矢筒を背負っている以外は特徴がないように見えるらしい。

 森の中で身を隠すのに特に重宝するエルフ手製の品だが、街の中でもある程度の効果があるようだ。






 “ひよこの止まり木”亭。

 冒険者ギルドと提携しているというこの宿は、宿泊だけで食事はやっていないという。


「稼げるようになったら、後進のために部屋を開けるのがルールだ。まあE級までだな」

「なるほど」


 ひよことは見習いを指すということだろう。

 そして見習いを指導するE級まで、といったところだろうか。

 だが、そのうち出て行かなければならないということは、宿代が増えるということではないのか。


「そうだよ。頑張って稼げるようになろうな」

「なんてことだ」


 いや、おいしい食べ物というのが期待外れである可能性もある。

 それならば、そんなにお金は必要ないかもしれない。

 お風呂だって水浴びで充分かも。今まではそうだったのだ。

 だが、一度は試さないとならないから、そのためにやはりお金は必要だろう。


 エルエルは人間の街の厳しさを一つ学んでいた。


 さて。

 宿の管理は一組の男女で、元冒険者の夫婦らしい。

 人間は経年劣化するというが、確かにキノコやルティなどと比べると、採取して時間が経った果物のようにしなびている。

 それでも体は鍛えているように見えた。姿勢が違う。

 エルフは体が成長すれば見た目はあまり変わらなくなるので、人間の個体差は面白い。


「女将さん、ひとり部屋かクーニャのところに入れてやってほしいんだが」

「クーニャは知ってるのかい?」

「これから話す」

「じゃあ先に話してきな」


 エルエルが考え事をしていると、キノコが管理者の女性、オカミサンと話を進めていた。

 いけない。

 こういうことも自分でできるようにならないと、一人前のE級にはなれないだろう。

 見て学べることも多いはずだ。


「ところで、クーニャとは? 人の名前のようだが」


 エルエルは、聞こえてきた話の中で、気になった点を尋ねる。


「俺のパーティメンバーだ。お金を稼ぐために特に協力している仲間で、エルエルと同じく見習い冒険者だな。今日は別行動していたが、今後はエルエルとも一緒に行動するから、紹介するよ」

「そ、そうか」


 エルエルは、ドキリとした。

 例えるなら、藍の森を訪ねてこの辺のはずだ、合ってるよなと入口を探していた時に誰何されたのと同じような気分。

 まだ見ぬ仲間。

 キノコのことだから悪意はないのだろうが、あらかじめ言っておいて欲しかった。

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