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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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5.エルエル、天才的ひらめき

 キノコとキノコを食べる間、通りがかった集団にキノコがキノコを分け与えたり、エルエルを紹介したりということがあった。

 通りがかったのは年若い男女で、その多くが人間。

 彼らはエルエルと同じく冒険者見習や見習いを卒業したばかりの冒険者だと紹介された。

 エルエルはフードを被ってよろしくを繰り返すおしゃべり鳥のようになっていた。

 あとから考えると、大変礼を失する行いをしたと反省した。

 だがこれはキノコが悪かったと思う。直前にした話がよくない。






 日が暮れる前に石壁の内側に戻る。

 夕暮の時間になると、あれだけいた人々がずいぶん減って、どこか寂寥感を感じる風景が広がっていた。それでも朱の森よりも多くに人が見えるというのに。


 道の脇にあるエルエル三人分ほどの高さの棒の先に、光源の魔法が設置されていく。


「あれは魔法使いギルドの仕事だが、手が足りない時には冒険者ギルドに声がかかることもある。結構報酬いいらしい」

「ここには魔法使いが沢山いるのだな」

「光源の魔法は、専業の魔法使いじゃなくても使えるやつが多いんだ」

「どういうことだ?」


 人間は分業して組み合わせで補完し合う種族だと聞いていた。

 得意不得意はあれど、一通りなんでも仕込まれるエルフとは手法が違うのだと。

 寿命の差からくる戦略なのだと。

 魔法使い以外も魔法が使えるとなると話が違う。


「簡単な魔法なら道具を使って覚えられるんだ。カネはかかるが」

「それはすごいことだな」


 これは報告すべき事柄ではないだろうか。

 エルエルは忘れないように、頭上の光源魔法を睨みつけた。

 人間は数が多いが寿命が短く技術はつたないというのがエルフの中での認識だ。

 数が多くて技術がそれなりになると、何かが変わってくるかもしれない。何が、というのは、まだエルエルにはわからないが。


 その後、冒険者ギルドに戻って、採取した植物と残ったキノコをルティに引き渡したとところ、エルエルの手元に銀色の通貨が2つやってきた。

 キノコと半分に分けた結果だ。


「キノコのぶんはキノコのものでは?」


 自分で言っておいてわかりにくいなとエルエルは思った。キノコキノコと紛らわしい。


「一緒に行動したんだから等しく分ける。これが一番揉めにくい。他の分け方も今度教えるけどな」


 そういうものだと先達に言われれば、そういうものかと思う。

 朱の森では、みんなが少しずつ分けてくれたりしたものだが。それはエルエルが最近まで末っ子だったからだろう。

 等しく分けると言われると、対等になった気がしてしまう。

 エルエルは教わっている立場であるし、キノコを渡した分から余分にもらったようなものなのに。


「エルエルは森で活動できるから、ギルドが集めている役に立つ植物を持ってくればカネが稼げる」

「うん」

「これがいろいろある冒険者ギルドの仕事の一つな。やっていけそうだろ?」


 そういえば、冒険者を身近に感じられる事例と言って連れ出されたのだと、エルエルは思い出し、頷いた。


「大まかにだが、それ一枚で最低限の一日の飯代。もう一枚でギルド提携の宿に泊まれる。エルエルはそれで一応この街で食っていけるわけだ」


 キノコがそう教えてくれる。

 今日はおひさまが中天を過ぎてから少し森に入った程度。

 キノコの説明を聞きながらでもあった。

 その気になればもっとルティに渡せるだろう。

 なんだ、人間の街での生活は簡単じゃないか。

 エルエルは内心で胸をなでおろした。

 そしてキノコの評価を上げる。なかなか気遣いがうまいやつだ。

 エルエルを安心させるために、いくつもあるらしい中から森での採取を教えてくれたのだろうから。



「とはいえ、この街で最低限の食事なんかで満足できるかっていうとな」

「そうですねえ」

「うん? どういうことだ?」


 エルエルが自信をつけていると、キノコとルティが不穏な言葉を交わしていた。


「いや、ザッカーの街はな」

「ご飯がおいしいんです」

「そうなのか。いいことじゃないか」


 人間は食事に工夫を凝らすと聞いていた。

 エルエルはそれも楽しみにしていたのだ。

 朱の森の食事は季節ごとに違いはあれど、あまり変わり映えのしないものばかりだった。

 食べ物を工夫するという概念を知った時は頭の中に雷が落ちたような気がしたものだ。


「エルエル、うまいものを食うにはな、相応にカネが必要なんだ」

「“最低限”の食べ物は、味も最低限なんですよねぇ」

「そんな」


 頭の中に雷が落ちたような気がした。

 十年ぶり二度目である。

 どれくらいお金が必要なのだろう。

 たくさんの植物をルティに渡せばいいのだろうか。

 待てよ。


「だが、キノコのキノコはおいしかったじゃないか」

「あんなもんじゃないってことだよ」

「なんてことだ」


 よく考えたらキノコは朱の森でも食べていたし、エルエルにとっては珍しくもない身近なものだ。美味しかったけど。焼き加減大事。

 しかし、エルエルは工夫したおいしいものを求めていたのだった。


「ケ、ケイさんのキノコってなんですか?」

「帰りにキノコ焼いて食っただけだよ」


 なにやら、ルティが鼻息荒くキノコを問い詰めているがエルエルもキノコに頼まなければ。


「キノコ、お金を手に入れる方法をもっと教えてほしい。食べ物にはどれくらいお金が必要なのかも」

「落ち着け」










 ほんの少し騒いで、そして落ち着いた後、キノコがエルエルに尋ねてくる。


「そういえば、宿は俺が泊まっているところでいいか? 冒険者ギルドで紹介された宿で、部屋はまだ空いているはずだから」


 宿。

 寝る場所ということだろう。

 宿代が銀のお金一枚と言っていた。

 その時、エルエルの脳内に天才的なひらめきが舞い降りた。九年ぶり二度目。


「宿は要らない。広場にあった樹の上で寝ようと思う」

「城壁内は野宿禁止だから捕まっておいしいもの食べられなくなるぞ」

「そんな」

エルエルのことが気になったら

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