41.エルエル、結成
「潜入パーティの先導をすることになった」
「どうしてそうなった」
「大丈夫なのかにゃ?」
「私一人なら多分大丈夫。同行する人間が大丈夫かはわからない」
会議の後。
協力というのが遭遇地点と方向を示すことと、偶然もう一度転移先に遭遇した場合に方向を確認することだと思って頷いたところ、森を縦断して転移元を探索することになっていた。
エルエルはおかしいなと思ったが、考えてみると適役ではある。
引き受けてもいいかと思ったのでそのまま受けた。
森の中ならゴブリンやオークをすり抜けて進める自信はある。
問題は同行者について何も知らないということだ。
「一緒に来る?」
「無茶言うな」
「足引っ張りたくないにゃ」
「そう」
キノコとクーニャならと思ったが、断られてしまった。
まあ人数は少ないほうがいいのだが、それはそれとして少し寂しい。
「無理するなよ?」
「うん。キノコとクーニャはどうする?」
「俺たちは他のC以下と一緒に斥候と伝令をすることになりそうだ」
「そう。そっちの方が危ないかもしれない。気を付けて」
敵対する集団の拠点に乗り込んで偵察することと、転移で突然現れる相手を探して回るのは、運が悪いと後者のほうが危険だ。
キノコもクーニャも転移の前兆に気づけないのだから、突然真後ろに森オーガが出現することすらあるかもしれない。
それは大体死ぬやつだ。
場所の見当がついている拠点に向かうのが危険でないとは言わないが、行動を起こしているのがこちらであるのだから、状況を支配できるのもこちら。
危険は調整できる。
森の中ならなおさらだ。
「まあお互い生き残ろうぜ」
「また一緒にお菓子を食べるのにゃ」
「うん」
こうして、エルエルは森から出て最初の友と別れた。
有力な魔法使いが偶然転移先に遭遇するのを待って位置を割り出す試みと、すでに分かっていることから探索を進める試みは並行して進めない理由はなかった。
前者はあまりにも運に頼っており、後者は早く動く方が有利に違いなく、同時に難しそうなら偵察にとどめて撤退も選べる。
あえて挙げるなら戦力分散だが、時間という問題があった。
事実上の街道封鎖状態を解除しなければザッカーの街は干上がるだろう。
だから限りなく決死隊に近い精鋭が集められた。
「転移させずにオーガの上位種を確実に仕留める強さを持っている者は必要。転移施設や道具だった場合に見極められる者も必要。森を歩けること、音を消せるとなおよい。数が多いと見つかりやすくなる」
森で先導者となるエルエルの提言により、剣の風の魔法使いウィスタと巡回騎士団副騎士団長グーフゥが選抜された。
剣士エクスも希望したが、甲冑がうるさいので外された。
騎士グーフゥも金属甲冑だが、自前で音を消せるのだという。
巡回騎士団は国でも屈指の魔物との実戦経験の持ち主であるはずなので必要があって身につけたのだろう。
まともにやって勝てない魔物の寝首を掻く、なんてやる必要があったのかも知れない。この点ではB級冒険者よりも巡回騎士団のほうが知恵を使っていると言える。
戦力としても、騎士は冒険者で言うところのB級以上の強さだと聞いた。
B級冒険者はすごいと思ったばかりである。
騎士はそんな上澄みの集団なのだ。
そして、知恵を共有している。
冒険者もしていそうに思えるが、どうなのだろうか。
「それは、巡回騎士団はいろんな場所に行くし、お金があるからでしょう」
ウィスタが言う。
冒険者はお金がないし、巡回騎士よりは行動範囲が狭い。少なくともB級パーティ剣の風はザッカーの街を主な拠点としており、国中を移動して戦い続ける巡回騎士団ほどの行動範囲ではないという。もちろんパーティによるところはあるが。
「うちの鎧やらの技術は外に漏れないようにしているからな。他国の軍と戦うこともある。冒険者も商売敵にネタを取られねえようにパーティの秘密にしてる戦術やらあるんだろ」
「そうですね」
「公開すれば全体の戦力が上がるが人間の中での争いに不利になるってことだ」
強力な獣や魔物に脅かされているのに余裕があるなとエルエルは思ったが、それでも人間は特に広い生存領域を持っている。話に聞く遊牧種族に次ぐほどだ。そして数は人間の方が上だろう。
実際に余裕があるということだ。
まあ獣だって縄張りがかぶれば争うのだからおかしな話でもないのかもしれない。
そうすると余裕ではなく危機感によるものか。
今を生き延びなければ明日困ることもできないというような。
だとすると。
「数が多いのも大変なのだな」
「数が多いから大変なんだよ」
なるほど。
そして、エルエルたちは森に入る。
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