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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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32.エルエル、勧誘される

「あなたたちは、この先どうするつもりなのかしら?」


 剣の風の魔法使い、ウィスタは街道を歩きながらでもよく喋った。


 人間の世界について、キノコとは違う方面でいろいろなことを知っていたし、尋ねたことには嫌なことをせず答えてくれる。

 むしろもっと喋らせろというようだ。

 お喋りが好きなものは人間にもいるらしい。

 エルエルは、朱の森にもいたなあと思いだす。代り映えしないがちょっとだけ違う毎日の、その小さな違いを大きく取り上げて楽しそうに話す。昔の話とからめて話を広げて延々としゃべり続けるのだ。

 エルエルは話が尽きないウィスタに、そんな故郷の仲間の面影を見た。

 やはり人間は、数が多いぶん個性も多様なのだろう。

 そのうち、ほかの朱の森のエルフたちに似た性格の人間と会えるかもしれない。



「この先と言うと、ザッカーに戻ってからということですか」


 キノコはしゃべり方が変わる。

 相手や状況によって変わるのはわかる。

 エルエルやクーニャに対するのと比べると控えめ、という表現が正しいかわからないが、おとなしい。

 キノコはエルエルとクーニャにとって先達だが、ウィスタはそのキノコにとっても先達というわけなので、まあやりにくいのかもしれない。


「もっと先の未来の話です。どういう冒険者になるか、冒険者を引退する時どういう立場になっていることを目指すか、といったことですね」

「正直想像もつかないにゃ」


 真っ先に答えるクーニャ。ギルドを変えて見習いの身、先のことよりも今は熟れることが優先なのだろう。

 それは所属したばかりのエルエルも同じことだ。


「そうね、ならも少し近く。見習いからE級になったらどうするの?この三人を中心としたパーティを組むのかしら?」


「クーニャさん」

「ケイくん、そんな怖い顔しないで?」

「いえ、良いんですけどね。まだギルド員になったばかりですよ?」

「あら。声をかけるのは早いほうがいいし、早く出会えた幸運を逃すのは愚か者でしょう」


 キノコとウィスタが、にらみ合うというほどではないが、若干不穏な雰囲気で視線をかわしている。


「どういうことだ?」

「剣の風は、エルエルちゃんを勧誘しようと思っているわ」

「わかった。持ち帰って検討する」

「…………」

「?」


 以前、キノコに言われたように返答したら、ウィスタは泣きそうな顔になった。


「検討するための話を聞きたい」

「もちろんよ」


 元気になった。


 ウィスタの話によると。

 冒険者は十年ほどがんばって芽が出なければ引退を考え出すらしい。

 そして、芽が出ても、さらに十年も活動していれば体がついていかなくなるのだそうだ。

 人間の話。

 さらに言えば、引退すらできないものも多いという。


 つまり、いまのエルエルの年齢、四十歳で現役で活躍している人間の冒険者は極めて限定的であり、五十年は人間の世界を見聞しようとしているエルエルは、その期間を同じ仲間とだけ過ごすということはまず不可能である。

 ということらしい。


 人間は年齢を重ねると衰えると言うが、実際に言われると思った以上に短いのではないだろうか。


「つまり、パーティの脱退や加入は決しておかしなことではなくて、普通のことなのよ。剣の風の皆も、登録からずっと一緒に組んでいたものばかりではないですしね」

「誰かが大怪我や命を落とすこともあるな」

「そう。危険と隣り合わせのお仕事ですからね。そうでなくても、現状の戦力では足りないところを補ったり、過剰なところを削ったり、意見が割れて解散したり、パーティは流動的なもの」

「つまり、加入や脱退は積極的に行ってもよいことだと」

「そういうこと。いずれにしろ脱退を考えるほどの状況なら、命を預け合うことは難しいでしょう。加入については言うまでもないですね」


 エルエルは信用できない仲間、という概念を考えてみた。

 そう、例えば、喧嘩中の相手と狩りに行くようなもの、いや、狩りに私情は持ち込むまい。

 我慢できないほどなら誰かが止めるだろう。

 つまりそういう状態か。


「そうやって活動した先で、何かを得るか、何も得られなくなる前に、いつかは引退するわけです。引退の仕方は大事ですね。失敗すると盗賊になり下がることになり、活躍によっては英雄として高い身分を賜ることもあるでしょうが、まあまあのところで冒険者ギルドの職員や、村の用心棒あたりでしょうか」

「俺の地元にも元冒険者だった夫婦が居たよ。畑を継いだ兄が亡くなって帰ってきたんだったかな。村の守りについて中心になってたな。俺も含めて剣を教わってた」


 村。

 石の壁に覆われていない人間の住処。

 戦えないとたった一つの偶然で強力な獣やら魔物が現れれば壊滅するだろう。

 成立しているということは戦えるということだ。


「少なくとも現役冒険者やら騎士やらが来るまで時間は稼げないとな」


「とまあ、十年から二十年ほどでそういうことを考えたり経験しながら生きている人間たちと一緒に冒険者をやるつもりでいるのなら、ぜひ剣の風としばらくでも、行動を共にしてみませんか」


 ここまで前置きだったらしい、ウィスタが挙げるいいところ。

 まず、すぐにB級に準ずる待遇で活動できること。お金を稼げる。おいしいものに手が出せる。


 そして、ザッカーを主な拠点にしているところ。とはいえこれは他のザッカーのパーティとの差にはなるまい。

 ザッカーのおいしいものに興味を持っているエルエルには魅力ではある。


 次に、それなりに遠征にも出るところ。

 人間の世界の見聞という目的にかなうだろう。解説付きだという。

 ウィスタの解説にも興味はあるが、エルエルの目で見て回るという視点で考えると要らないかもしれない。うまい落としどころはないだろうか。


 望むならキノコとクーニャと一緒でもよい。

 もともとキノコも勧誘していたらしい。ただ、すでに一度断られているとのこと。


「クーニャちゃんも、エルエルちゃんについて行けるのなら勧誘に値します。将来性込みですが」

「なるほど」


 ともあれ。

 エルエルは持ち帰って検討することにした。

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