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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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31.エルエル、街道を歩く

 街道の一部、平たく広い場所では、街道の左右が刈り払われている。おおむね、それぞれ街道の幅ほどの広さである。


「魔法使いが大勢集まって魔法の練習ついでに街道の維持をするのですよ」


 森や荒れ野の侵食を防ぎ、野生の獣や魔獣を街道から引き離し、もし遭遇するとしてもより早く気付けるように。

 また、軍の移動の際の野営地として。

 旅人や冒険者用の野営地では千や万という数を受け入れられるわけはなく、また、必要になってから場所を確保するよりも普段から維持できている方がよい。野営場所の確保にかかる時間分余分に移動可能でもある。わずかな差だろうが、移動の利便性を上げるという、街道の目的にも適う。


 とかく、平らで広い場所というのは貴重である。多くの場合ほかのことに使われている。農場の需要はいくらでもある。農作物に土が合わなくても、放牧には合うかもしれない。

 そうなっていないのは軍事上、政治上の都合があり、安全と、その他必要なものの確保の事情がある。

 将来的に問題が解決すれば新たに村や町が生まれる可能性は十分にあるだろう。


 その前段階として、場所の維持という活動があるのだそうだ。

 街道の維持は領主や国の役割だが、実作業は様々な組織に降りてくる。

 街道の恩恵を受ける組織、例えば行商人ギルドなども絡んでくる。

 その中に魔法使いギルドや冒険者ギルド、魔法騎士団なども含まれて、魔法使いの合同演習として街道整備を行うこともあるのだそうだ。


「人間の社会は色々な組織があって複雑だ」

「魔法使いの所属だけ見ても、いろいろありますものね。魔法使い協会に所属して冒険者ギルドに出向している、なんて人もいますから」

「ぐちゃぐちゃだにゃ」


 人間は基本的に一つの組織に所属するらしい。それぞれの組織が利益を追求することで対立しあうことがあるからだ。その時どこに味方するかということだ。

 だが、実際にはもっと複雑で、理屈をつけて実質掛け持ちしたり、実質別の組織に籍を置いたりということもあるという。

 さらに複数の組織が共同でなにかに携わったりも。

 本当に複雑なことだとエルエルは思う。


「攻撃魔法で藪を払って、整地の魔法で穴をふさいで、造石の魔法で石畳を作ったり、補修したりも。まとまった数の魔法使いを一度に動かせれば大きな力になります」


 規模や期間はまちまちなので、それができない時期は人力ですが、とウィスタは続ける。


 人間の魔法は使えば使うほど身につくらしく、魔法学校がある都市の周辺はしっかり魔法で整備されるのだとか。

 それにしてもずいぶん詳しい。

 ウィスタは魔法学校の出身なのだろう、とエルエルは思った。


「スクロールで魔法を覚えた者も、その仕事に携わるのか?」

「道を整備に使う魔法をわざわざ修得スクロールで覚える人は多くないでしょうし、藪を払ったり、草を刈ったり、火をつけたりには使える魔法もあるでしょうけど」


 一般に流通する修得スクロールには攻撃にそのまま使えるようなものは含まれないらしい。

 芝をきれいに刈り揃えたり、森際の藪を払うための魔法は使えるかもということで、あまり向いていないという。


「まあ、なんでも魔法でやっていたら、手仕事の知見が失われるか」


 人間の魔法は相当細かなことにまで手を広げているようだ。

 だが、火をつける魔法を常用して世代を重ねると、火をつける道具の使い方がわからなくなるかもしれない。

 人間は寿命が短いので世代交代もすぐだ。

 百年後には、あたり前のことを誰も知らない、なんてことがあるかもしれない。

 新しい技術が広まって不要になるのなら、もちろんよいことだが。


 例えば魔力喰らいの魔物が大繁殖したら大変なことになりそうだ。

 もちろんそんなことは、まずありえないことだけれど。


 何万年かまえに、それで世界は滅びかけたらしいので、万が一そうなったら大変そうだなとエルエルは思った。


「それはエルフの伝承?」

「長老のおひとりが見てきたように語っていた」


 エルフの長老の年齢はわからない。

 人間と違い、見た目には現れないが、エルフも歳を取れば変化がある。

 なのでちょっと見れば大体何歳くらいか感じ取れるのだが、千歳を越えたあたりから、エルエルにはわからなくなる。

 並んでいればどちらが上かくらいはわかる。

 だが具体的に何歳かまではわからない。たくさん、である。


 なので長老が伝え聞いたのか見てきたのかはわからない。エルフの寿命というものは、エルフにすらわかっていないのだ。

 なんでも見てきたように話をする人だったので余計に。おそらくそういう精霊と仲がいいのだと思う。見ること、知ることに長けている。

 今、ザッカーの街が当たっている問題も簡単に解決してくれるかもしれない。

 とはいえ、ここに長老はいない。



 ウィスタが目をぱちくりさせている。


「まあ、伝承と思っていいと思う」

「そ、そうですよね」


 一人旅と同じ、居ない者を頼ることはできない。

 それでもできることを増やし、発展し、豊かに暮らしている人間たちはしたたかだと、エルエルは思っていた。

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