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3.エルエルと近所の森

 ザッカーの街近郊の森。

 冒険者見習の子供も出入りする程度の危険性の森であるという。

 年に何人か死んでいるので油断はしてはいけないとも。


「なぜそんなことになるんだ」

「冒険者ギルドは登録無料だからだ。森で活動したことがなくても登録できる」

「先達が面倒を見るのでは?」

「言うことを聞かないやんちゃなやつがいるのさ。そこまで面倒見切れねえ。お上も見習い冒険者の死亡はそんなに気にしてない」


 森で動植物を採取する。

 故郷では日常だったそれは、このザッカー、人間の街では特別なことらしい。

 だからお金を稼ぐことができる。

 そのお金を目当てに無理するものが出る。


「人間の街で暮らすにはカネが必要だ。宿代と飯代、あと仕事道具の整備とか、嫌われない程度に見た目も繕わないといけない」

「うん」

「それが出来ないなら街に来なきゃいい。だが街で生まれたやつはどうだ。仕事にあぶれたら。犯罪者か冒険者になるしかない」


 はてな。

 エルエルは気づいてしまった。


「もしかして冒険者というのは大変で犯罪者一歩手前の仕事なのか?」

「大体のやつにとってはそうだな」


 なんてことだ。

 街についたら冒険者になればいいと教えてくれた、自称外界通のエスエルめ。


「冒険者はモンスターと関わる仕事だからな。危険だから誰でもできる仕事じゃない。でも他のことができないならやるしかない」


 消去法なのか。エスエル、消去法ということなのか?


「だが、俺やエルエルみたいに街の外での活動ができるやつにとっては食うに困らない悪くない仕事だ」

「なるほど?」


 エルフは狩りができるし、戦える。


「ほら、その草」

「あ、これも価値があるのか。朱の森ではもっと、その」

「もっと効果が高い薬草があっただろ?」

「うん」

「エルフがいるような深い森にしか生えないんだよ、そういうの」

「なるほど」


 エルフは植物の識別もできる。

 森の場所によって植生が違うことは知っていたが、浅い森にはほとんど来なかったし、人間たちが使う薬草がこんな弱いものだとは思っていなかった。


 キノコがしゃがんだので目をやると、キノコがキノコを採っていた。


「こいつは毒がないけど似てるキノコに毒があるやつがあるだろ」

「ああ」

「腹を減らした見習いがわからないで食っちまったりするわけだ。そういうやつは街の中で売ってるキノコしか見たことないからな」

「それは……」


 そのように餓える者が出るような環境がおかしいのではないか。

 エルエルはそう思ったが、多数の人が集まる街では勝手が違うのだろうか。


「俺にもわからん。だが、貧乏なやつは余裕がなくて、選択肢が少なくて、目先しか見えなくなって、判断を間違えるやつが多い気はするな」

「そんなに腹を減らしたことはないな」

「そりゃ幸せなこと……」


 キノコが急に黙る。

 理由はエルエルにもわかった。

 ゴブリンだ。

 気配に気づいてそちらを見ると、木々の向こうに姿が見えた。向こうはまだ気づいていない。

 エルエルとほぼ同時に気づくとは、キノコはなかなか優秀な狩人らしい。


 キノコが手振りでやれるか、と尋ねてくる。

 エルエルは頷いた。この距離で外すやつはエルフではない。

 弓矢を構えて撃った。


 命中。


 口の中に一本。目に一本。

 叫ぶ間もなく絶命せしめた。




「ほかに気配を感じるか?」

「いや」

「よし。さすがだな、いい腕だ」


 キノコが褒めてくれる。朱の森では下から数えたほうが早いのでちょっと複雑な心境だ。


 ゴブリンの死体に慎重に近づいて確認する。


「はぐれだな。斥候隊ではなさそうだ」

「同意見だ」


 数を頼みにするゴブリンが、単独で動くということははぐれである。

 何かの理由で群れを追われたか飛び出した個体。

 今のエルエルと似ている気もする。

 しかし、エルエルには仲間がいるが、ゴブリンにはいなかった。


「このだいぶ奥にゴブリンの集落がある」

「潰さないのか?」


 ゴブリンはエルフの敵の一つだ。近くに現れればせん滅するのが習いである。


「さらに奥にオーク、その奥にオーガの巣が確認されてる。ゴブリンの斥候隊が出るようになったら、厄介なモンスターが現れた可能性が高いから、最優先でギルドに報告してくれ」

「警報がわりということか」

「人間は森に強くないからな」


 森には様々な生き物がいる。

 縄張りがある。

 それが乱れれば特殊な状況ということになる。人間にとっては一大事なのだろう。


「直接オーガの生息地と隣接するのはごめんだしな」

「見習いが生き残れなくなるな」


 ゴブリン相手なら生き残れる可能性はあるかもしれないが、はぐれオーガなんてものがうろついていたら未熟なものは生きていられないだろう。

 わざと生かして盾にするのはエルフも別の生き物でやっている。

 理解はできた。


「埋めていいか?」

「そうだな、頼めるか?」

「うん」


 ゴブリンの死体は埋めるに限る。

 エルエルがお願いすると、地面がずももももと動いてゴブリンは見えなくなった。



「よし、森の外まで出てキノコ焼いて食おうぜ」

「肉も食べたい」

「帰りに何か狩れたらな」

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