20.エルエル、お金を知る
冒険者のお金は銀貨だという。
この国では金、銀、銅を加工した貨幣を使っていて、それぞれの交換基準も定められているのだが、実際にはその通りに交換されないことが多いという。
なぜかというと、貨幣を交換する両替という行為が事業として成り立つからだ。
交換の際に手数料を取るので交換すると価値が減る。
それなのになぜ事業が成立するほど需要があるかと言えば、貨幣が重いからというのが一つ。
次にかさばること。
貨幣は価値があるのに邪魔なのだ。それでも麦の束とか薪の束、鉄鉱石の山よりはマシなのだが。
では、より高い価値の貨幣を持てばいいかというと、そうすると不便になる。
一日の最低限の食費が大まかに銀貨一枚とキノコが言った。
だが、一日一食で生活するだろうか。
二回三回食事をとるとすると、銀貨一枚でその支払いができるだろうか。
銀貨を三つに割って使う?
貨幣の損壊は重罪である。
三つに分けた価値分の貨幣が必要になるだろう。
それがこの国では銅貨だ。
安価な買い物は銅貨で行われる。
逆に、高価な買い物は金貨で行われる。
銅貨をたくさん持って行って高額な、例えば宝石などを買おうとすれば苦労するだろう。
何千枚、何万枚とかになると重いしかさばるし、宝石を売ってくれる側もちょっとやめてよねクソ邪魔すぎるわってなる。
通貨は邪魔なのでできるだけ高額貨幣で持ち歩きたい。
しかし、そうするとこまごまとした買い物に不便。
さらに持ち運びしやすいということは盗まれやすいということでもある。
かといって大袋いっぱいの低額貨幣を担いで歩く判断はない。
なので、自然と普段使うことが多い貨幣を中心に持ち歩くことになる。
見習い冒険者にとってはそれは銅貨かもしれないが、冒険者全体で見ると銀貨級が多い。
人数が多く一人前と見られるD級、C級がそうだからだ。
だが、それより上になると金貨も使われる。
そして、その金貨がエルエルの目の前にあった。
「いや、ありがたいっすけど、せめて銀貨でもらったほうがもっと嬉しいんですが」
同じく金貨を与えられたキノコがそんな要求をしていた。
これはなんのお金かというと、オーガ討伐とオーガの皮の報酬の一部なのだという。
まず、オーガはキノコのパーティと剣の風との共同討伐という扱いになったらしい。
エルエルがオーガの注意をひいたことが討伐に重要な役割を果たしたと評価されたのだ。
そして、分け前について特に取り決めがなされていなかったため、冒険者ギルドの規則として、各パーティの人数で割って配分された。
事前に取り決めがあれば、B級である剣の風の取り分を多くするところだが、それがなかったので、冒険者同士でもめないために、ギルドの規則が定められていた。
つまり頭割り。
現場にいなかったキノコやさらにこの場にいないクーニャまで数に含めているが、冒険者ギルドの方針としては当然ということらしい。
クーニャは伝令としてオーガの情報をもたらし、キノコは冒険者ギルドに連絡し、増援を連れてきた。
どちらがなくとも、討伐はならなかっただろう。とはいえ、同じパーティのエルエルが戦闘参加と評価されていなければ事情は変わっていた、ということだ。
皮についてはエルエルにはよくわからない。
何かそういう流れになったらしい。
剣の風はエルエルたちに渡す必要はなかったが、渡してもおかしくない理屈は立つらしく、剣の風側の事情と厚意によって転がり込んできた。
結果として、エルエル、キノコ、クーニャはそれぞれ金貨一枚分の報酬が発生したのだ。
この場にいないクーニャには後日直接渡されるそうである。
余談に次ぐ余談が続いたが、ケーキに続いて、先日の報酬ということでこのお金を渡された。
「ケーキは銀貨三枚だったな。私も銀貨がいい」
「まあ、構わんが。確かにその方がよかったか」
ギルドマスタービーズは特にいとう様子もなく、法定の比率で銀貨にしてくれた。じゃらじゃらだ。
オーガは金貨の取引が当たり前なのだろう。
そういう範疇の敵だったということである。
実際剣の風は金貨で受け取っていた。
重量もかさも金貨のほうが明確に小さいのはわかる。何十倍という違いだ。
金貨が当たり前な報酬を別の貨幣でやり取りしていたら、確かに邪魔で仕方がなくなるだろう。
だが金貨が大量に必要な規模になったらどうするのだろうか。
「そういう時は、金貨より軽い宝石や宝飾品に変えるのよ。売り買いするから実質目減りするけれどね。他には魔法の道具とか」
剣の風の女性のひとりがエルエルの疑問に答えてくれた。
エルエルがケーキを食べたあたりから妙に好意的な視線を向けてくる。
言っていることには、なるほどと思った。
より価値があって、身に着けられるならそれでいいわけである。
「もっと先には不動産とか投資とかあるけど……」
「その話は後日でもよかろう。そろそろ話を再開していいか?」
と、ビーズが言って、休憩が終わり、今後の話が再開した。
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