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2.エルエル、からかわれる

 受付嬢のルティと名乗った女性に手続きを最後まで進めてもらい、エルエルは立派な見習い冒険者となった。


「見習いがするべきことはあるのか?」

「まずは先輩にお仕事を学ぶところからね」

「なるほど、もっともだ」


 エルエルが頷くと、ルティはちらりと周囲、というより右手の酒と肉の気配がする一帯に視線を走らせる。

 すると。


「おぅい、エルフ殿、こっちで話をしよう。初心者への講習ってやつだ」


 と、男の声。

 エルエルが見ると、テーブルに着いた男が手を振っている。

 ルティを見ると頷いたのでそちらに向かうことにした。


「ルティ、ありがとう。今後ともよろしく」

「はい、エルエルさん、がんばってね」


 ルティに手を振って、男のテーブルに歩み寄る。

 髪を短く刈った男で、小弓と剣をテーブルに立てかけている。

 机の上には野菜スティックが盛られた器が置いてある。


「まずは座ってくれ、エルフ殿」

「よろしく、人間殿」


 エルエルは勧められた椅子に座りながら言葉を続ける。椅子というものに座るのは初めてだなと思いつつ。


「よく勘違いされているようだが、エルフは肉も食べるのだ。食性は人間と大差ないのだと」


 エルフに伝わるあるあるネタ。なんか肉を食べないと思われがち。


「うん? それは羨ましいな。俺は昨日安い肉を食いすぎてな。胸焼けして肉が食えねえんだ」


 野菜スティックに手を伸ばし、ポリポリとかじる男。

 どっと笑う周囲の冒険者。

 エルエルはなんだか恥ずかしくなった。


「今日は奢るから好きなもん頼んでいいぜ。その辺の連中が食ってるモノでうまそうに見えたら注文してみるといい。なんならこれ食ってもいいけどよ」


 男が野菜スティックの器をエルエルの方に寄せてくる。

 エルエルはそこから一本つまんで二口で食べた。


「エルエルだ。朱の森のエルエル。先輩、よろしく頼む」

「E級冒険者のケイだ。最近はもっぱらキノコって呼ばれてる。好きな方で呼んでくれ」


 エルエルが頭を下げると、男、ケイはひらひらと手を振りながら応えた。もっと楽にしろと言う手ぶりだったろうか。


「疑問が二つある」

「どうぞ」

「なぜキノコと呼ばれるようになったのだ?」

「それはだな」


 ケイは元狩人だった。

 冒険者になる以前から森での活動はそれなりに熟達しており、植物の見分けもついた。

 そして素人には難しいキノコの見分けが完璧だったからだそうだ。

 ケイ、いや、キノコは面白おかしい語り口で話してくれた。

 エルエルの口元がうっかり緩むほどだ。


「なるほど、では私も敬意を表してキノコと呼ぼう。私のことはエルエルと呼んでくれ」


 周囲の冒険者がどっと笑った。

 何かおかしなことを言ってしまったのかと困惑するエルエル。

 人間が森の生き物に熟達しているのは大変なことだ。そうして得られた名誉であろう。

 キノコは肩をすくめて。


「じゃ始めようか」


 と言った。







「E級ってのは見習い卒業したってことだ。このギルドじゃ、見習いの面倒はE級が見る。基本的にはな。エルエルもうちに慣れたらいつかこの役目が回ってくる」

「なるほど」


 森では、老人が子供の面倒を見ていたものだが、ここでは違うのだろうか。


「引退した冒険者はE級の指導を見守るんだ。ちゃんと見習いの間に教えられたことが身についてるか、教えられるくらいにな。今だって俺が間違ったことを教えたらすぐそこら中から指摘が飛んでくるぜ」

「ただ飲んだくれているわけではないのだな」


 エルエルがうんうんと頷くと、周囲の連中が一斉にガクッと肩を落とした。

 よくわからないが、息が合っている。


「それとは別に技術指導なんかも受けられるから、必要なら受付に言いな。今はルティが座ってるが、何人か交代でやってるから」

「わかった。会ったら挨拶しておく。ただ、必要かどうか判断ができないのだが」


 まだ何もわからない。

 冒険者ギルドの人たちが、親切だということくらいである。


「うん、その姿勢はいいぞ。わからないことは仲間に尋ねろ。特に受付のお姉さま方がいい。本人がわからなくても教えてくれそうなやつを見繕ってくれる。もちろん俺でもいい。街には悪い連中も多いから、判断に迷ったら自分には判断がつかないので仲間と相談すると言って持ち帰るんだ」

「うん? この街は親切な人ばかりだと思ったが……」

「そりゃ運がよかったんだよ。いいやつも悪いやつもいる」

「そうだったのか……」


 エルエルは自分の経験が急に信じられなくなった。

 ここが異郷だということを思い出した。

 親や長老の庇護のない場所だ。

 そんな場所にたった一人。


「心配すんな。俺が一人前になるまで面倒見てやるよ。俺も田舎出身で今のエルエルと同じような気分を味わったんだ」

「な、なんのことだ?」


 不安になったところで、キノコが手を伸ばしてエルエルの頭をポンポンたたく。


「場所によって別の風習があるからな。少しずつ慣れていけばそのうち仲間になる」

「……その子供をあやすような手つきをやめてくれ」

「おっと、すまねえ。それじゃ、俺たちを身近に感じられる事例を見せよう。エルエル、植物の見分けはつくだろう?」

「当然だ。朱の森のエルフだぞ」


 キノコが立ち上がったので、エルエルも席を立った。

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