18.エルエル、気を使う
「人手が足りませんが」
継続調査と街道周辺の確認という指示に対して、剣の風のエクスから反論が出た。
「東西と森で最低でも三組は必要ですよね。調査はもっと手が欲しいところですが」
「もちろん、この場のもので優先的に決め、足りぬところは別のパーティに依頼する」
どうも無駄に手順を踏んで複雑にしているように、エルエルは感じた。
なのでキノコに助けを求めてみる。困った時は仲間を頼れと言っていた。
「それはエルエルの能力を測りかねているからだろう。登録してほとんど活動しないうちにこの事態で、でもなんか役に立ちそうだから。人手が足りないし試してみようってことじゃないか」
「なるほど。そういうことでいいのだろうか?」
エルエルが本人たちに確認すると、ギルドマスタービーズとB級パーティは目をそらした。
「そうだって」
「そうなのか。人間のやり取りは難しいな。慣れるだろうか」
「俺の知ってるエルフは空気読むの上手かったからエルフだから無理ってことはないと思う」
キノコの言葉に少し安心する。
が、今はそこではない。
「私は朱の森のエルエル。弓の腕は下から数えたほうが早い。剣の腕は一番下で、魔法の腕は上から数えたほうが早い。薬の腕はまだ見習いだが、森歩きは一人前と認められた。外界見聞のお役目を受けて人間の世界を見聞するため、人間の世界で必要なお金を得るために冒険者ギルドに所属した。五十年ほど見聞して朱の森に戻るつもりだ。人間の世界のことはまだあまりわかっていない。直截に話してもらえるととてもうれしい」
エルエルは自分のことを知ってもらおうと言葉を紡いだ。
弁解すると、エルフは男性が弓、女性が魔法が得意な傾向にある。
その理由は胸だ。
十歳ころというごくごく幼少のころから性徴によって体形が変わり始め、二十歳くらいにかけて女性は胸が膨らむことがある。
エルエルは比較的膨らんだほうだった。
そして弓を扱うのに膨らみは邪魔だ。
エルエルは胸当てなしで弓を撃ちたくないなと思うくらいじゃまだ。
それは過去のエルフも同じだったようで、結果として力を注ぐ時間が変わってくる。
氏族によっては切り落とすところもあると言うが、朱の森ではそういうことはなかった。
なのでエルエルは弓の修練をさぼっていたわけではないし女性エルフの中では頑張っている方だ。
なお剣については駆け引きにおいて経験の差が出すぎて文句の言いようもないくらい一番下である。
「外界見聞使だと……」
エルエルは能力について説明したつもりだったが、ビーズが別の場所に反応した。
「ギルドマスター? なんですかその」
「外界見聞使はエルフの長の目だ。立場としてはエルフの長の代理人だよ。わが国では王にため口きいても許される」
「え、いいなあ」
ビーズが早口でいろいろと説明してくれ、エクスが頷いている。
なんでも、エルフの森は扱いとしては一つの国であり、その長は王と対等の立場にあるという。各国の王同士が実情はともかく建前上は対等としてやり取りするのと同じことである。
そして、外界見聞使は人間の国で言えば外交使、大使に近いエルフの長の代理なのだと。
そして文化の違いもあるので多少の礼儀の差は黙認されるらしい。
「確かに、朱の森を代表する、長の代わりのつもりで振る舞うようにと言われている」
こちらが外界を見聞するように、外界のものはエルエルを見る。エルフが悪く見られるか、よく見られるかも、エルエルにかかっているのだぞ、と出発前に言い聞かせられていた。
なので、長のしゃべり方を真似したり、堂々とふるまったりと、エルエルは頑張っているつもりである。
しかしどうも、先ほどからビーズは、エルエルが問題のような。正確には外形見聞使というものが、だろうか。
「もし邪魔なら去るが」
エルエルは気を使った。
砂糖は輸出しているというし、ザッカーにこだわらなくてもいい、かもしれない。
残念だが。
「いやいやいや! そんなことはない! 外界見聞使を追い返したなんてことになるほうが困る! エルエル殿は思うように見聞してくれればいい」
「エルエルでいい」
なんだか大袈裟なことになりつつあると、エルエルは内心焦っていた。
外界見聞の話はしない方がよかったかもしれない。
ちょっと旅をして土産話をよろしくね、くらいのことなのだ。
重要な情報は別の方法で集めているらしい。秘密なのでエルエルは教えられていないが。
そんなに重要な役目ならエルエル一人ではなく何人か連れ立って派遣するだろう。
エルエルに求められているのは外界に出かけたエルフがどう扱われるか、楽しく過ごせるかを見極めることだ、と自称外界通のエスエルが言っていた。
であれば、その役目のせいで大事になるのは本末転倒だろう。
「いや、エルエルへの扱いで人間からエルフに対する扱いが判断されるって言われたら軽く扱えないだろう」
「すべてのエルフに対して同じように扱うのでなければ、過剰な扱いは役目のためにも不要。害ですらある」
「めんどくさいなそれ」
キノコは変わらず。
これでいいのにとエルエルは思った。
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