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17.エルエル、呼び出し

 オーガは、はぐれ個体であり、討伐済みなので森は普段の様子に戻った、と発表されたのは、オーガとの遭遇から三日目のことだった。

 見習いたちの待機は二日間。

 その間、エルエルは「E級になったら組まないか」というお誘いを何度も受けたが、そのすべてに持ち帰って検討するという答えを返した。


 結局、一般には見習いの財布に痛手を与えた程度の影響ではぐれオーガ事件は終わったことになる。

 それも、仕事をまじめにすればギルドから補填されるということだ。

 見習いが生活できなければ後々困るのはギルドだということらしい。もちろん働く気がない見習いに用はないとも。






 その一方で、エルエルは、キノコと共にギルドの会議室へ呼び出されていた。

 クーニャは宿で寝ている。


「冒険者ギルドマスターのビーズである。今日は集まってもらい、感謝する」


 ピンと整えられたひげを生やし、街ではあまり見かけないバリっとした衣装を身に着けた男性がビーズ。

 年のころは、エルエルにはわかりにくいが、目じりのしわを見ると若くはないのだろう。

 声は太く低い。

 これまであった中で近い印象は農場主だろうか。

 体は鍛えているようで、背筋は伸び、胸を張ってエルエルたちを眺めるように観察している。


「まずエルエルはフードを取れ」

「わかった」


 エルエルは指示に従った。


「さて、剣の風、およびケイ、エルエル。集まってもらったのは他でもない。オーガの件だ」


 この場には、B級パーティ、剣の風の面々も集められていた。

 甲冑を付けていないが、剣をはいている男がエクスだろう。

 ゆったりとした衣服の女性が二人、がっしりとした体格の男が一人。計四人。女性二人はそれぞれ異なる意匠の服で、一方は木の杖を、一方は殴られたら痛そうな形の鈍器を持っていた。


「丸一日分追跡したが、ほかにオーガの痕跡はなく、連携の様子は見られない、はぐれもしくは単独の斥候と考えられる、と報告を受けた。一般には状況終了と発表したが実際のところは確定ではない。そうだな?」


「はい。一組で一日調べただけで結論を出すのは早いでしょう」


 エクスがビーズに同意する。

 ビーズはそれに頷いて、エルエルを見た。


「エルエルはどう思う」

「私か」

「そうだ。せっかくいるんだ、森のエルフとしての意見を聞きたい」

「なるほど」


 急に話が飛んで来てエルエルは少し戸惑ったが、エルフとしての意見と言われれば答えざるを得ない。


「まず、私はあまりオーガを知らないことを断っておく。そのうえで、あれほど派手に森を破壊して移動するのがオーガとして一般的なのか確かめたい。つぎに、オーガの道士、マギの子と言っていた。魔法使いがいるオーガの群れは極めて危険だと聞く。可能なら探し出して討つべきだろう。あのオーガはエルフをあまり知らないようだった。エルフの領域とは離れた場所に住んでいたと思う。それから、森の中に警戒線を張るべきだと思う。農場の守りではオーガは止まらない。避難の時間を稼ぐ準備が要る」

「まだなにかあると思うか?」

「わからない。オーガが攻めてくるなら突然一斉に攻めるほうが強いはず。それがないなら今回はこれで終わりか、もっと危険な何かの準備かのどちらか」

「なるほど。よくわかった」


 ビーズが頷く。


「実は、街の上層部もその二つで意見が割れておってな」

「楽観論と悲観論ですか」

「うむ。知っての通り、この街は東西にホニ河に沿って延びるホニ街道があり、南に農地、北に森が広がっている。農地の先にも森がある。ホニ河を利用して砂糖を輸出している」


 知らなかった。

 砂糖は船で運ばれているということだ。

 まだ口にしたことがないのでエルエルにはいまいち実感がわかなかった。

 本当においしいのだろうか。


「河と街道で南北の森は一応さえぎられている。だが、南の森でオーガが出現した。今までは出現するとしても北だった。オーガが北から南へ移動したとするとどうなるかわかるか?」

「街道や河を横切ったことになりますね。つまり街道にオーガが出るということに」

「そんなうわさが流れれば街の物流が止まる。物流が止まれば街が滅びる。だからもう大丈夫ということにならないといけない」


 なんというかそれは、現実逃避ではないだろうか。

 そんなエルエルの考えを感じ取ったのか、ビーズがエルエルに視線を向けつつ言葉をつづけた。


「しかし、それで本当にオーガに襲われでもしたら、同じことになる。そこで巡回騎士団を呼ぶことになった。半年ほどザッカーに駐屯してもらうことになった。名目はイノブタが増えすぎたので巻き狩りを行う騎士団の休暇だ」


 ビーズがエルエルを見てにやりと笑う。

 だが、エルエルは他のことが気になったので、隣でずっと黙っているキノコに訊いてみた。


「巡回騎士団?」

「王国内を回って厄介な魔物を倒してくれる騎士団だ。ひとりひとりが冒険者で例えるならB級以上の強さがあるっていうぜ」

「わかった」


 つまり、エクスたちと同格以上。

 オーガと十分戦える戦力を持ってくるということだった。

 それも、表向きは休暇ということで。


 エルエルは人間はうまく嘘をつくものだと学んだ。


「そこで、お前たちに依頼がある」


 エルエルとキノコの密談が終わるのを見計らったように、ビーズが話を再開した。


「巡回騎士団が来るまで十日ほど。継続調査と街道周辺の確認をしてもらいたい」

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