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15.エルエル、待機

 エルエルの帰還後、一晩明けて翌日。

 イノブタ退治の仕事は中断となり、B級冒険者による調査が終わるまで、見習いには待機指示が出た。

 E級以上は動員されて仕事が割り振られている。

 日常の継続的に達成され続けることが期待される仕事が滞るのは、冒険者ギルドとしても街としても不都合なことだ。

 オーガが一体現れただけで崩れるような体制では脆弱すぎる。


 なら、なぜ見習いが待機させられているかというと、つまり見習いは戦力として数えられていないのである。

 幼子を隔離することで、大人が安心して動けるようにするのと同じことだ。

 保護と、足を引っ張らないようにと。


 そしてもうひとつ。

 見習いとはいえ、実際には赤ん坊ではない。人手が必要になった時すぐに動けるようにするためだ。



 ともあれ、エルエルとクーニャは冒険者ギルドで三十人ほどの見習い冒険者と共に待機することになった。

 待機中は食事が支給される。待機していては収入がない。餓えてもらっても困るというわけだ。

 あんまりおいしくないお粥。

 せめて具があれば、と思いながらエルエルとクーニャが腹を満たしていると、しばらく遠巻きにしていた見習いたちが寄ってきた。


「なあなあ、オーガってどんなだった?」


 年若い少年少女。

 エルエルがほとんど関わったことがない種類の相手だ。クーニャと、藍の森のエルフの数名。

 見たところ多くが人間。離れて様子をうかがっている中にクーニャのような獣人も見える。

 もしかするとエルエルが知らない種族が混ざっているかもしれないが、それはわからない。


 直接に声をかけてきたのは人間の男。年頃はクーニャと同じくらいだろうか。

 なるほど、別の種族の細かいところは見分けがつかない。キノコがエルフの見分けがつきにくいと言っていたように、エルエルは若い人間の年齢を見分けられないかもしれない。

 ただ、すこし緊張しているような気配がすると思った。


「オーガか。オーガは大きい。この建物の2階の窓より背が高かった」


 腕はエルエルの腰より太かったし、全身が筋肉に包まれていた。

 その皮膚に矢は深く刺さらず、目を狙っても腕で払ったり額で受けるような機敏さも見えた。

 体毛は濃いが脳天は露出しており角が生えていた。

 布と毛皮を加工する技術はあるようだが、薄汚れていたのできれいにするという意識は少ないか、たんに余裕がなかったのか。


「そういう話より、戦い方とか見てないか?」


 エルエルが思ったことを語っていると、方向修正を望まれた。


「木をへし折って振り回したり、投げつけたり、土砂をぶつけようとしていた」


 重量や体積でたたき潰す。王道で単純な暴力。そのまま強さである。


「ガキみたいな暴れ方だなあ」


 そうなのだろうか。

 危険度は全く違うが。


「自分の頭より太い木で殴られたら危険だし、拳より大きな石を受けても危ない」

「えっ」


 どうやら、過少に想像していたようで、具体的な大きさを示されて顔を青くする見習いたち。


「だが、エクスが真っ二つにしていた」

「おお!」

「すげえ!」

「さすがエクスさん!」

「素敵!」


 エクスの活躍に言及すると、急に盛り上がる。

 銀色に光って斜めに切断され、ゆっくりと地面に倒れていく様子を描写していくと、見習いたちはほおを紅潮させて興奮していた。


「エルエル、体動かしてこないかにゃ? おなかすかせればおいしく感じるかもしれないにゃ」

「それはいい考えだ。だが、冒険者ギルドから出ないように言われているが」

「中庭で訓練できるようになってるにゃ」


 しばらく黙っていたクーニャがそういいながら立ち上がる。

 エルエルも立ち上がって囲みを抜けてついてくと、見習い冒険者たちも少し遅れて後を追ってきた。







 受付のルティにことわりを入れて、クーニャを先頭にぞろぞろと移動する。


「この木剣は好きに使っていいのにゃ」

「いつももっと訓練しろって言われてるんだぜ」

「仕事しないと食べてけないのにな」


 中庭に出る手前が物置になっており、古びた防具や新旧混ざった木製の武器が雑多に置かれていた。


「待機中だからへろへろになったらまずいだろうけど」

「暇つぶしくらいならいいよね」


 各々これと決めているものがあるらしく、見習いたちは木製武器を手に取って中庭に出て行く。

 エルエルは腰に下げている短剣と同じくらいの長さのものを手にした。ほとんどの場合、木は金属より軽いので、重さが合わないと思っていたがまあその通りで、厚みと幅が大きく重さがある程度合うものを選んだ。


「いいかにゃ?」

「うん」


 クーニャは両手に短剣を持っていた。

 ふたりは連れ立って、見習いたちが思い思いに武器を振り回す中庭に出る。


「エルエルのすげー所を見せてやるにゃ」

「え?」

「撃ち合うにゃー」


 クーニャが構える。

 エルエルに向けて。


「わかった」


 エルエルも構えた。

 切っ先をクーニャに向ける。

 剣は弓よりも練習した時間が短い。

 だが期間で言えば同じくらい。

 その経験から言うと。

 クーニャは剣を教えてくれたエルフよりは下だと思う。

 エルエルと比べるとどうだろうか。


「じゃあいくにゃ」


 言葉と同時にクーニャの姿が消えた。

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