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13.エルエル、追跡する

「これはよくないな」


 エルエルは思わず声のもとへ駆けた。

 驚いたのはクーニャがしっかりとついてきたことだ。

 ここまでに慣れたのか、エルエルの見立て以上の身体能力があったのか。エルエルは最近までエルフしか見たことがなかったのだから見極めを間違えても仕方がない。


「でっけぇのにゃ」


 姿が辛うじて見えるあたりまで接近し、樹上の葉に隠れて様子をうかがう。

 そこには巨大な人型が、猪、いや、イノブタを両手で掴んでもっしゃもっしゃと食べていた。

 イノブタはされるがまま。それも当然、とっくにこと切れているようだ。


「あれは話に聞く森オーガというやつではないだろうか。森巨人にしてはいささか小さい」

「あれで小さいのかにゃ」


 エルエルの三倍以上の背丈はあるだろう。だが森巨人は家の高さに匹敵するというからもっと大きいはず。なお、家の高さというのはエルフ基準。巨樹の樹上の家を指す。


「反対側の森の奥にオーガがいると聞いたが」

「あちしもそう聞いてるにゃ」

「はぐれか斥候か。流れものか」


 どちらにしても放置はできない。

 とはいえ。


「エルエル。冒険者は二人以上で行動するにゃ。なぜかわかるにゃ?」


 クーニャが小声で尋ねてきたので、エルエルは聞き返した。


「なんで?」

「想定外の状況に遭った時、ひとりが見張り、ひとりが伝令に走れるようににゃ」

「なるほど」


 森の偵察にクーニャを付けたのはそういうことだったか。

 エルエルからクーニャに森のことを教えさせる狙いもあっただろうが。


 例えば現在のような状況。

 森オーガの情報は農場まで伝わらなければならない。

 この場で倒してしまえばまだいいが、戦いになればどちらが生き残るかわかるまい。

 今は発見されていないが、不意の遭遇であれば撤退が難しい場合もある。

 撤退するにしても、足止めや見張りを残せれば、成功しやすくなり、次につながるだろう。


「クーニャ、キノコに伝えて。森オーガを発見、イノブタは一頭は食われて残りは離散で追跡困難。エルエルは戦闘を避けて追跡する。勝てる戦力を連れてきて」

「イノブタもかにゃ?」

「イノブタが私たちの仕事」

「そうだったにゃ。あんなもん見つけちゃったから抜け落ちてたにゃ」


 森オーガの対処はエルエルたちの仕事ではないのだ。

 なるほど想定外。


 エルエルは、深き森のマントを外してクーニャに渡した。


「これをつけて。森の中で他のものに気づかれにくくなる」

「エルエルのほうが必要なんじゃないかにゃ?」

「エルフは、森の中でそれを必要としない」


 深き森のマントはエルフの旅装だ。

 普段着ではない。


「すぐにもどるにゃ。気を付けるにゃ」

「まかせて。そちらも」


 ふたりでうなずき合い、クーニャは木の上から飛び降りて、音もなく着地すると駆けだした。


「さて、どうなるだろうか」










 森オーガが森の破壊者と呼ばれるには理由がある。

 森が、森オーガにとって少しばかり狭いからだ。

 人間やエルフだって適度に木々を間引く。

 森オーガだって同じようにする。

 エルフは魔法で、人間は鉄を使い、木々を間引くが、森オーガはその膂力で充分なのでそうする。おそらくはただそれだけのことなのだ。


 しかし、それがほかの生き物にとっては脅威であることに変わりない。

 人間や、エルフにとっても。

 知恵も言葉もある。

 それでも敵対し続けているのは、奴らが他の生物を顧みないからだろう。


 イノブタを食い散らかした森オーガは、ぐおんぐおんと楽しそうに笑った後、来た方向とは別の方へと歩き出した。

 なぜわかるかと言えば、オーガの移動してきた方向には破壊跡があるからだ。


 適当に決めたのか、イノブタの一頭が逃げた方向か。それともあらかじめ決めていたのか。

 ひとまず、エルエルがいる方向、つまり農場方面ではないことに安堵するエルエル。

 人間が枝を払うように、木を払いながら移動する森オーガ。

 当然騒がしいので距離を保っても追跡は容易だ。


 問題はやはり、破壊しなければ動きにくい場所まで森オーガが進出しているという点である。


 森オーガだって、いちいち破壊しながら移動するのは面倒だろう。

 イノブタを追ってきた?

 いや、エルエルの見立てでは、森はイノブタや猪であふれているはずだ。

 それとも、森オーガの氏族が大移動しているとでも?

 それならもう少し激しい反応が起きていると思う。


 そんなことを考えながら、エルエルは追跡を続けた。

 いくつか分かったことは、獲物を見つけると雄叫びを上げて威嚇して、動きを止めたところを捕まえて殺すという戦い方。

 夜になっても仲間と合流しないこと。

 森オーガの通り道を遡れば別の情報を得られるだろうが、それは今ではない。

 森オーガ自体を捕えておくことの方が重要だと思った。


 森オーガが眠りについたとき、仕掛けるかどうか考えた。

 自分であれば対策をしているだろうと考えてやめておいた。

 それで確実に勝てるならいいが、そうではない。

 焦る必要はない。

 時間はエルエルの味方である。

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