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12.エルエル、森歩き

 エルエルとクーニャが森に入るところまで、話は遡る。


「このあたりは人の手が入っているのだな」

「にゃ。農場関係者が薪拾ったりするらしいにゃ。子供が出入りすることもあるにゃ」


 位置としては、昨日ゴブリンを倒してキノコや植物を採取した森と、ザッカーの街を挟んで反対側になる。

 森というよりは管理された林。

 もちろん奥に入ればまた変わってくるのだろうが。


 下草は刈り払われ、歩くのに支障がない程度に木々も間引かれている。

 イノブタの移動も障害がないということ。


「人が出入りするならこのあたりに罠を仕掛けるのは危険だな」

「子供が引っかかったらあぶねーにゃ」

「大人でも危ない。そもそも、猪が危ない」

「管理も大変にゃ」


 エルエルはさっと見回した後、近くを指さす。


「クーニャ。これがイノブタの通った跡だ。これを追う」

「うーん? わかんねーにゃ。でも臭いは追えるかもにゃ」

「わかった。先導するから、臭いとずれがあったら教えてほしい。わからなくなった時も。あと、できれば私の踏んだ場所を踏んで歩いてくれ」

「にゃ? なかなか難易度高いにゃあ」


 エルエルは森の中に足を踏み入れる。

 イノブタの痕跡を追跡するのだ。それで見つかれば僥倖。猪と同等とすれば、奴らはよく歩くので、期間の時間までに見つけられるかは怪しいけれど。

 クーニャは足元を見ながらついてくる。頭上への意識がおろそかなので、時折声をかけて注意を促しながら進んでいく。


「エルエルにかかれば、散歩みたいなものにゃ?」


 しばらく進んだところで、クーニャが尋ねてきた。


「いや。私にとっても知らない場所だから気をつけて歩いてる。気を付けるところを知っているだけ」


 街の中を案内されたとしたら、立場は逆だったろう。実際に宿では設備、特にクローゼットの使い方を教えてもらった。

 エルエルはそのことを伝えると、クーニャはまだ納得していないようで。


「でも、そんなのは難しいことじゃないにゃ?」

「自分が理解していることは簡単に思えるだけではないか?」

「そんなもんかにゃ?」


 エルエルは朱の森のひとりのエルフを思い出した。

 腕はいいが教えるのが下手な弓手。

 なんでわからないんだ、とよく言っていた。

 結局教示役は別のエルフに変わったが、腕は変わらずそのエルフが一番だった。


「自然に身についていることほど教えるのは難しいのかもしれない」

「そんなもんかにゃ?」

「あ、あれを見てくれ」

「なんにゃ?」


 エルエルはイノブタの痕跡の一つを指し示す。


「キノコをかじった跡だ。イノブタもキノコを食べるらしい」

「おおー、にゃ」

「どうもこのあたりは森の恵みが少ないな」

「農場の人や冒険者が入って採取もしてるからにゃ」

「それもあるが、獣の食料が不足しているかも」

「うにゃ?」


 エルエルは、一つ思いついたことがあった。


「クーニャ。人間の住処の近くの獣は排除されるか」

「人や家畜に害がありそうなら、そうなるにゃ。狼が出たからやっつけてみたいな仕事は結構あるみたいにゃ。キノコが言うには、村で対処できることもあるらしいにゃ」

「なるほど」


 つまり、直接害がありそうな獣は積極的に狩られ、それ以外は具体的に害が及ぶような、つまり今回のような状況になれば狩られるということだろう。


「あとは肉のために狩られるにゃ。でも、農場でも肉を売るようになったから狩りの需要? が減ってる? らしいにゃ」

「わかった。ありがとう」


 森を進む。

 エルエルの目で見た限りでは、あまりよくないかもしれないなあ、という様子が続く。

 朱の森の森守であればどう判断するだろうか。

 はるか遠くの森のことなど気にしないか。

 そもそもの環境も違う。人間とエルフでは理想とする環境も違うだろう。

 エルエルの思い違いかもしれない。

 とはいえ。


「なにかわかったのかにゃ?」


 エルエルが考えながら歩を進めていると、クーニャが尋ねた。


「そう遠くない先に、森が狂って人間に害をもたらすんじゃないかと思う」

「え、ど、どういうことにゃ?」


 おそらくは、肉を喰らう獣を減らし続けてきたことが原因の一つだろう。

 逆に植物を食べる獣、雑食の獣が数を増やしているようだ。

 通常なら、それらの獣を肉食の獣が食べて自然と調整される。

 しかし、肉食を間引き続けることで徐々に均衡が崩れていく。


「そうなると、どうなるにゃ?」

「森に食料が無くなって、獣が人の近くにやってくる。獣は本来慎重で臆病だから寄ってこない。でも人がたいしたことない怖くないと学んだら話が変わる」

「ごくり。にゃ」

「そうなって、森の恵みを獣の数が凌駕するようなことになったら、駆除の手が足りなくなるかも」

「大変にゃ!」


 人間は大規模に農場を作って生活しているということを、エルエルは先ほど見た。

 あれはいい餌場になるだろう。


「遠くない先って、どれくらいにゃ?」

「はっきりとは言えない。五年か、十年か、百年か」

「にゃ?」


 クーニャの声から、急に緊張感が抜けた。


「そんな先にゃ?」

「わりとすぐ。森は簡単に戻らないから。木が立派に育つのに何年かかるか知ってる? 獣の数が落ち着くのに何世代かかるか、想像できる?」

「う、わかんねーにゃ」

「私もわからない」

「そうなのかにゃ?」


 エルエルはエルフとしては若いのだ。

 知らないこともある。

 朱の森の森守なら見当をつけてくれるかもしれないが。

 森のことでもわからないことはたくさんあるものだとエルエルは改めて認識した。


「でも、決定的に狂う前に、大きな変動があって環境が変わるかもしれない。そうなったら余計な心配だ」

「大きな変動ってなんにゃ?」

「例えば強力な魔物がふらっと現れてあばれるとか」


 と、エルエルが言った時。

 森の中に野太い絶叫が響いたのだ。

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