11.エルエル、現場検証
「ここですぜ」
「ああ、見事に掘ってくれてるなあ」
農場主が、荒らされた現場、侵入口とみられる柵の場所を案内するように手配してくれたので、エルエルたちは指示を受けた農夫に案内されて現場を確認に来た。
「毛が残っている。これは猪か? 私が知るものとは少し違和感がある」
エルエルの身長の倍違い高さの柵の下に穴が掘られており、その位置から侵入されたであろことがうかがえる。
そして柵に引っかかるようにして、獣の体毛が残っていた。
「昔に逃げて野生化した豚と猪が混じってるんですわ。イノブタと呼んでやす」
「なるほど。穴の大きさからして、大きさは森の猪よりも小さい。ただ数がいる。ここでは何を栽培しているのか聞いても?」
「サカブっちゅう根菜ですわ」
聞いたはいいが、人間が育てている植物の名前をエルエルが知るはずもなかった。
「カブやダイコンに似てる野菜だ。ザッカーの名産の原料」
「わかった」
キノコが注釈を入れてくれたので、エルエルは頷いておいた。
名産?
「そう。砂糖のな」
「砂糖」
ついに、名産物の名前がわかった。
エルエルは記憶に焼き付けた。
「さて、この状況、エルエルならどうする?」
「畑を荒らす獣は駆逐しなければならない。味を占めて通うようになる」
「そうだな」
「だが、一日二日では終わらない。害獣対策は時間をかけてするものだ」
「それも正しい」
「今日のご飯はどうしよう」
「狩れれば食える」
「それはそうだ。狩れれば。ひとまず森を見ないと始まらないと思う。キノコはどう考える?」
キノコの問いに答え、エルエルは逆に尋ねた。
「俺も地元で害獣の対応はしていたが、あんなもんは無限に続く戦いだ。冒険者の仕事じゃない」
「そうなのか」
「今回は侵入したと思われる個体を処分できることが重要だ」
「それは大事だ」
「また来るのを待って捕殺する準備、同時に間引きもできればいいが、一パーティでやる規模の仕事じゃない」
「では?」
「罠を張って待ち構えるのを基本線と考える。さらに森を偵察して状況の確認。報告してさらなる対処を勧めるところまでかな」
「なるほど。クーニャは?」
「にゃ?」
キノコの考えを聞いたので、鼻をひくひくさせながらうろうろしていたクーニャにも尋ねてみる。
「犬を使って番をさせるにゃ。臭いを追いかけてもいいと思うにゃ。イノブタくせーのにゃ。でも猪こえーのにゃ」
「猪は神話の勇者も殺すからな」
クーニャもまた考えを持っていた。前職は荷下ろしギルドと言っていたが、さらに前に何か経験があるのかもしれない。
「まあ、あちしは狩人じゃないから、今回はあんまり意見したくないにゃ」
「わかった。何か気になることがあったら言えよ。俺たちより感覚が鋭いんだし」
「にゃ」
三人の考えが出たので、キノコが行動を決定した。
「俺が待ち構える準備をする。人手は農場に借りる。エルエルはクーニャを連れて森を見てきて気づいたことを報告」
「大丈夫か? キノコも、クーニャも」
先達の指示には従うが、疑問はあった。
人員を分けていいのかということ。
そして、クーニャをエルエルにつける理由である。
「大丈夫だ。エルエル、クーニャは少しだが冒険者の先輩だ。クーニャはこの間教えたことをエルエルに話してやってくれ。エルエルはクーニャに森のことを教えてやってくれ」
「うう、しょうがないにゃ。エルエル、よろしくたのむにゃ」
「わかった」
指導役でもあるキノコが言うなら、ということでエルエルは納得した。
仮にクーニャが全く森を知らないとしても、エルエルが教えればいいのだ。そうしろとキノコも言った。
この判断がどう出るか。
「冒険者は二人以上で行動するにゃ。なぜかわかるにゃ?」
クーニャが小声で尋ねてきたので、エルエルは聞き返した。
「なんで?」
「予想外の状況に遭った時、ひとりが見張り、ひとりが伝令に走れるようににゃ」
「なるほど」
それはまた、今の状況にピッタリの教えだ、とエルエルは思った。
森の中。
決して深いとは言えない場所に、居てはならないものが居た。
エルエル三人分を超える高さの体を持つそれは、そこらの樹木に匹敵する大きさと言える。
あまり高いと森で暮らすのに不便そうにエルエルは思うが、実際のところどうなのだろう。
実際に見ると、邪魔とも邪魔じゃないともいえそうだ。
邪魔でなければ移動するのに木をなぎ倒す必要はない。
簡単になぎ倒せるなら邪魔とは言わない。
森オーガ。
森の破壊者とも呼ばれる巨鬼が、猪を殴り殺して食っていた。
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