自分の家に入れねぇ
2023年 自分の家に入れなかった時のお話
家に帰ると駐車場に妻の車があった。
今日の妻は休日出勤のあと、一度家に帰って夜は職場の飲み会があったはずだ。今はまだ16時、とすると早めに帰ってきて準備しているということか。
マンションのエントランスからチャイムを鳴らす。鍵は持っているのだが、チャイムを鳴らして開けてもらうのが我が家のルールだ。男と女の意識の違いだろうか、突然ドアを開けられるのが怖いらしい。
ピンポーン
あれ? 応答がない。もう一度チャイムを鳴らす。が、やはり応答がない。
こういうことはたまにある。たまたまトイレに入っているとか、顔を洗っているとか。私はエントランスの鍵を開け、家のドアの前まで移動して再度インターホンを鳴らす。
ピンポーン
おかしい、反応がない。イヤな記憶が頭をよぎる。
鍵を開けてドアノブを引いてみる。
ガチャン!
そこには予想通り、ドアガード(U字型のアレだよ、アレ)がかかっていた。我が家への侵入を阻むドアガード、私の家なのにドアガード、こいつめ、私を部外者扱いする気か?
とりあえず電話だ。スマホで妻に電話をかける。
ワンコール、ツーコール、頼む、出てくれ。ファイブコール、シックスコール、ただいま電話に出ることができません、ご用の方はピーという発信音の……。
なんだとぉぉ!
野球だって9回裏からだっていうじゃあないか、たった6回のコールで諦めるんじゃない!
ドアの隙間から大声で妻を呼んでみるがここはマンション、人目も多い。ドアに顔を近づけて大声を出している男など不審者以外の何者でもないだろう。
というか妻め、いったいどこに居るというのだ。ドアの隙間から廊下を覗いてみるが、薄暗い空間が広がるだけで人の気配がまるでない。はっ、実は無人ということか? いやいや、車もあるし鍵もかかっていた。もしこれで中に妻がいなかったらミステリーの誕生だ。疑われるのはまさか私か?
可能性として「妻が調子を崩して寝室で寝ている」ということが考えられる。何しろ妻は体が弱い。すぐに調子を崩す。しかも最近は仕事が忙しすぎて睡眠時間が削りに削られている。あり得ることだ。だがそうなった時、妻が電話をよこさないはずがない。過去、調子を崩すと必ず電話があったはずだ。
諦めきれない私は数度の電話をかけてみるが、やはり出る気配がない。コール音が聞こえないかとドアを開けてみたが、まったく聞こえない。
途方に暮れるがなす術がない。
実は締め出されるのは今回で4回目だ。私は田舎育ちで「ドアに鍵なんか要るの?」と考えるほどスカスカの防犯意識しか持っていないのだが、さすがに女性である妻は鍵を掛けないと不安らしい。何しろ家にいる時も鍵を掛ける。ついでにドアガードも掛ける。窓なんかにも全部鍵がかかってロックまでしてある。
念のために開いている窓がないか、マンションの周りを一周してみるが、やはり開いていない。
ちくしょう、どこかで時間をつぶしてくるか。というか、妻、大丈夫なんだろうか。
書店で1時間ほど過ごした後、妻に電話をかけてみた。
「おかえり~、今どこにいるの?」
「本屋さん。さっき帰ったんだけど鍵が閉まってたから時間をつぶしてた」
「ええっ!? ごめ~ん、お風呂入ってた」
よかった、体調崩してたわけじゃあないんだ。しかしだね、せめてかけるのは鍵だけにしてくれないかね。そう思いながら家に帰ると妻は玄関の前まで出て待っていた。うむ、出迎えご苦労。
イザという時のためにドアガードを開ける方法がないか、家に帰るとすぐに調べた。これ見よがしに妻の目の前で調べた。外からドアガード外す方法ないかなあ、とわざわざ声に出してから調べた。インターネットで検索すると、たくさんの動画があるではないか。
私が思ったより簡単にドアガードは開けられるようだった。え? ドアガードをする意味って?
あるの?