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リ・ライト  作者: 優月朔
一章
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一章Ⅱ:「友人」の答え

あまり書けてませんが書いてる分だけ上げます

「話、聞いてくれるか?」

 放課後。いつものように隣に鎮座している無表情な同級生に話しかける。彼女はいつも通り、よくわからないくらい分厚い本を、つまらなさそうに読んでいた。いつも何の本を読んでいるのかは、聞いたことがないのでわからないが、時々ため息をつきながら読んでいる。一体どのような本を読んでいるのだろうか。もっとも、普段の彼女の様子や、話しかけたときの様子から考えると、「一体どんな本を読んでいるんだ?」なんて質問をしたところで、「それを貴方に言ったところで、私に何のメリットもないと思うのだけれど。」などと一蹴されるか、一瞥もされないかのどちらかで、まともな返答には期待できないことは目に見えているので、深く聞き出すつもりは毛頭ない。今、話しかけたのも、以前の彼女の質問に対する『答え』を伝えるためだ。

「貴方の方から話しかけてきた時というものを回顧すると、凡そ碌なことが無かったような気がするのだけれど。今回は、一体何をやらかしたというのかしら。」

 少し話しかけただけでこれである。読んでいる本の内容など聞けるはずもない。

「なんで何かやらかした前提なんだよ。」

「日頃の行いがそうさせているという自覚を持ってもらいたいところね。早く、言いたいことを言ってもらっても良いかしら。無益な会話をするつもりは無いの。」

 このような人間のことを、現代人は自己中、またはエゴイストと言う。

「前に言ってただろ。『友情』とは何かしらって。」

「ええ。そういえばそのような事を聞いた気もするわね。」

 この反応から察するに、この質問は大月の中では日常会話の一端に過ぎなかったのだろう。晴斗との一件の後にこのような質問をされてしまって悶々としていた俺が、馬鹿らしく感じてきた。

「最近、一つだけ『友情』についてわかったことがあってさ。」

 大月は、読んでいた分厚い本に栞を挟み、静かにその本を閉じる。大月のこの行動は、多少は聞く耳を持ってやってもいいという意思表示だ。

「……貴方という人は、平穏に生きるということができない人間なのかしら。」

 大月が何を察したのかはわかりかねるところが、呆れ返った表情で、冷たい視線を送ってくる。こんなことやってるから、男子どころか人間から好かれないんだよなんて、何処ぞの誰かが言っていた言葉を言ってやりたいところだが、こいつの場合は「別に、人間に好かれる必要性がどこにあるのかしら。」などと平気で宣いそうなので、余計なことは言わないでおこう。

「いや、俺が何かやらかしたわけじゃなくて。妹とさ、その友達を見てたら思うところがあったんだよ。」

 あの早苗と東雲さんの一件を見ていて、『友情』とは何かについて意識しないことのほうが難しかった。

「妹。日向早苗だったわね。あの子に何か進展があったということは、シノノメアヤノとかいう郵便屋と友達にでもなったとかそんな事なのでしょう。」

 この女はやはり超能力者か、そうでないにしても何か特別な能力を持った存在なのかもしれない。

「まあ、そうなんだけど。あいつらの話を聞いてたらさ、友情って互いを知ろうとするところから始まってるんだろうなって思ったんだよ。」

 東雲さんも早苗も、お互いに相手を知ろうと近づいていった。その結果、彼女たちは友人になっていったのだ。その節々には偶然が重なっていたこともあったのかもしれないが、その偶然を見逃さず、自分の力で進んでいった。これが、彼女たちの物語の始まりなのだ。

「そう。貴方のその理論で行くと、既にお互いの性格をある程度認知していると言ってもいい私たちは、友人とやらになり得るのかしら。」

「は?」

 唐突に何を言い出すんだ、この鉄仮面。確かに、俺が大月の性格についてある程度把握をしているということは、無駄に何でも言い当ててくるこいつが、俺の性格を理解していないわけがない。何なら、早々に理解した上で、手のひらで転がしてくるようなやつだ。

 だが、しかしだ。

 俺と大月の関係には、互いに寄り添おうとするという前提条件が存在しない。故に、友人関係が成立するのかと聞かれたら、その答えはノーとなる。

「突然、何言っているんだとでも言いたそうな表情ね。実際、私のような厄介者と友人になることは憚られる事でしょう。それは、貴方の言い方に合わせるとしたら前提条件が揃っていないからとでも言っておけばいいかしら。要は、友人というものは、誰でもいいというわけではないの。初めから、その人の友人となるための才能が求められているのよ。」

 その人の友人となるための才能。才能という言い方をしてしまうところに、大月明里という人物の非情さを伺えるが、言おうとしていることは理解できる。実際、どれだけお互いを理解していたとしても、友人という間柄を許せる人間と、許せない人間という境界は確実に存在する。

「人間とは欲張りなものよね。自身の友人となる才能を持った人物が居て友人となったあとでも、何か小さな綻びから、いとも容易くその関係を自分の手で崩壊させることもできるのだから。そのような関係を築くくらいなら、始めから存在しないほうが良いのではないかしら?」

 言っている事の理解はできる。どうせ友人を作ろうが作らなかろうが、その関係が崩壊したあとに、事実として残ることは『友人は居ない』ということ。その人たち自身に傷が残るかどうか程度の違いだ。その傷が残るのが怖い人、例えば、俺のような臆病者は友人を得てして作ろうとはしない。晴斗の時に痛感した。こんな痛みが残るなら、最初から友人だなんて思わなければ良かったと後悔もした。

 けれど。

「友人が居ないと、世界が狭いんだよ。だから、友人が全く要らないとは思わない。」

 晴斗が俺に与えた他人と関わる面倒くささ、他人と関わることで知る人間関係の煩わしさ、でも、それでもその関係を楽しく感じる時があるこの感覚は、俺一人では絶対に見ることのなかった世界だ。

「大月は、友達居なかったのか?」

「……それは、どういう意図があるのかしら?」

 その微妙な間は一体何だ。

「質問を質問で返すなと、よくお前から言われているんだが。」

「……。厄介者はお互い様だったのかもしれないわね。」

「おかげ様でな。」

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