9話 身近なファンタジー①
それは、朝にバス停で待ってる時の事だった。
「おはようございます。」
前から薄々思ってはいたが、やはりハルルの家もこの付近のようで。
こうして居合わせるのにも、もう驚かなくなった。
「おはよハルル。
なぁ、ちょっといいか?」
「はい、なんでしょう。」
隣に座ったハルルに、スマホ画面に出した写真を見せる。
「これ、『どう見える』?」
「…なるほど、魔術の痕跡がありますね。」
昼休みの黒板の落書きを映した写真。
だけど重要なのは、そのメインの被写体ではない。
その画角の端に移り込んだ一人を、ぼかし加工でもしたかのように認識できなかった。
写真を撮った場所を思い返し、席順と併せて特定する。
ショウヤと最初に話した時、途中から混じってきたあの子だ。
丁度都合よくハルルの1つ前の席だが、ハルルの方は特に何も気に留まる事柄は無い様子。
ハルルには「必要とあらばこちらの情報を取引材料に使ってでも」とは言われたが、そんな交渉術持ち合わせてはいない。
それに当人が隠そうとしている事を、直に聞くような無神経のつもりもない。
「──ぼしは付けてるのか?」
そんな上の空から、話しかけられた事に気付くのに数秒のラグを要した。
「あ、ごめん、ちょっと考え事してて……。」
「なんだ、神秘系キャラってか?」
「いや、別にそんなつもりは……。」
思考を切り替え、ショウヤの手元の紙を覗き見る。
部活紹介、さっき配られたプリントだ。この後体育館で、任意参加のイベントがあるとの事。
考えすぎて思考が停滞するくらいなら、そういうので気分転換するのも手か。
任意参加であるが、1年がほぼ全員来てるのだろうか。体育館には人があふれ返っている。
…のを脇目に、通路で横の階段に分岐し、人の少ない2階のギャラリーへと向かう。
ステージから見て真正面の後方、そこで柵にもたれかかり、1階を見下ろす。
舞台上ではそれぞれの部活がアピールと共に活動内容を説明しているが、やっぱり舞台上でできる事なんてたかが知れてる。
リフティングでサッカー部の魅力なんて、分かる訳ないのに。
それよりも欲しかったのは、この一望。
今見えてる人達が、全て真実とは限らない。
自分以外には普通の人に見え紛れてるハルルのように、他にも人間以外の存在も紛れているかもしれない。
…自分で思っておいて信じがたい事だが、だからこそその固定観念を壊しておきたかった。