5話 新しい日常⑤
翌朝、教室。
来た時には既にヴェリダール…いや、偽名の方であろう上利田、そっちで呼ぶべきか。
窓際席で陽にたゆたう神秘の事を、この場にいる中で自分だけが知っている。奇妙な感覚だ。
「お前も気になるのか? あの子の事。」
不意の声、前の席の奴だ。
座席表から名前を思い出そうとしたが、流石に全部は覚えてなくて出てこなかった。
「…どういう意味でだ?」
「こんなとこに似つかわしくないかわいさだよなぁ。見とれるのも分かるぞ。」
…別に「見えてる」訳ではなさそうか。
などと考えているところに言葉が続く。
「お前高等部からのだろ? 編入性…でいいんだっけ? この場合。」
「一応厳密には『外進生』っていうらしい。」
「なるほどそういう言い方があるのか。
…なのに昨日そそくさとすぐ帰って。ちょっと変な噂立ちかけてたぞ?」
そう、この雲ヶ崎第二高校はちょっと離れた所に中等部も併設されている。だからそのまま流れの人も多いんだとか。
既にコミュニティができてる中、それは確かに失態か。
「あーその、考え事してて……。」
「ふふん、なるほどねぇ。」
…何やら勘違いされてる予感がする。
「俺、高輪 照也ってんだ。お前は…『ながら』でいいのか?」
「あぁ、長良 悠斗だ。」
「それでさ、お前ってゲームとかやるタイプ?」
身をぐいっと乗り出し、どうやらこっちの方が本命の話題の様子。
「それなりには。」
「じゃあレトロゲーは?」
「そこは気にしないな。情報とか動画見て面白そうかどうかで決めてる。」
「じゃああれやらね? ジャズ・ボーイ:キュートのコレクション版のやつ。」
「…名前を聞いた事あるくらいしか。」
「オレも自分ではやった事無いけど対戦が面白いって聞くし、相手が欲しくてさ。
最終作のとか対戦バランスがいいって聞──」
言葉を終える前に、机の上にドンと置かれた鞄に牽制される。
「こらそこ捲し立てないの。圧倒されてんじゃん。」
その荷物の主は、こげ茶ポニテの女子だ。
「だってお前が先に『5でやりたい事がある』って言うからぁ……。」
「…それは悪いと思ってる。
けど折角初見なら1から順にやるべきじゃね? ストーリー的にもシステム的にも。」
「それはまぁ、そう、か。」
丁度のタイミングで、チャイムが鳴り響く。
「ともかく考えておいてくれよ。
あと、他なんかやってるか──」
鞄の回収がてら、その側面がショウヤの顔を殴りつける。
…わざとだ。
絶対わざとだ。