4話 新しい日常④
「シント旧騎士家系、ヴェリダール・ロンドラーレ。
こことは異なる世界より、『調査』の為に遣わされてきました。」
その人が立ち上がりこちらに向き直り、凛々しく、かつにこやかに名乗った。
この短時間でも聞きたい事は増えたが、最初に気になった事から。
「さっきの質問ってどういう意味? 『他の見え方』でもあるのか?」
「見え方というか…そう認識できないのです、本来なら。」
襟を少し下げ、その下の物がちらっと見える。
チョーカー型の何か、その表面には直線状の脈のような青い光が走っている。
「…もしかして、魔法的な何らかなのか?」
「『認識を曖昧にする装具』、これにより私という存在の認識は曖昧になり、既存の知識で補うから違和感の無い姿と認識する…だそうです。」
「じゃあ何で俺にはその効果が無いんだ?」
説明は多分分かった。その上で、分からなかった点。
「それなんです!
以前お会いした時は『これ』を持ってき忘れていて、その時に姿を見たでしょう?
それで『そういう人がいる』と認識したから、認識が曖昧でも他の印象に置き換えられないのです。」
そこで一息入れられたのち、言葉が続く。
「不手際で焦っての失態だったので、それが不安でした。
いっその事、あれっきり遭遇せず事なきを願おうかとも思いましたが、見つかってよかったです。
…誰にも言ってませんよね?」
「…言ったら俺の方が変な奴扱いだよ、多分。」
と問答してる内にふと思う。
「けど、そうやって隠してる事なんだったら、俺に話していいものなのか?」
「まぁ見つけた以上、いざとなったら『対処』の手段はいくらでもありますし。」
特に脅す様子でもない言い方には、強い説得力があった。
「でも折角ですしどうでしょう、協力をお願いできませんか?」
「協力って、なんのだ?」
「言ったでしょう、『調査』に来たって。
私の知りたい事の多くは、あなたにとってはおそらく常識。
だから協力してくれると、とても助かります!」
現状把握だけでもいっぱいいっぱいな中での提案。
そんなオーバーヒートした錯乱状態な中、ひとつ思いつく。
「…魔法って、教われば俺でも使えるものなのかな?」
「どうでしょう、こちらの人の魔術適性は分からないので。
けど、やり方を教えるくらいならできますよ。」
可能性はゼロじゃない。なら。
「分かった、協力するよ。
けど、その代わり魔法の使い方教えて、ってのはだめかな?」
「いいでしょう、交渉成立ですね。
ただ、くれぐれも内密に──」
その時、近くの生垣から妙な物音。
不思議な感覚だ。そこに「何かいる」と感じる、けど姿を視認できない。
それを伝えようとしたが、既にヴェリダールは行動を取っていた。
右手のひら前に作られる、赤い電気玉。
バチバチと音を立てるそれを、牽制として投げ、「気配」が去るのを感じる。
電気玉が当たった地面には、少し焦げ跡が残っていた。
「そういえば、名前をお伺いしてませんでしたね。」
「そうだったな、悪い。
長良 悠斗だ。よろしく。」
……俺は付いていけるのだろうか、この世界観の差に。