206話 その先にある⑤
確かに怪談の役割として、危ないものから遠ざける為に、元々危ない存在をネタにしたものがあるのは分かる。
近いカテゴリとして、虫をわざわざ選んだのも分かる。
けど、遠くでもはっきち見えるくらいのサイズの蜂軍団を相手するのは、流石に気が進まなかった。
けど、引き受けた以上やるしかない。
いつものように人狼姿を纏い、ホルスターから銃を抜く。
まずは先制の射撃。しかし遠くて減衰した威力では外骨格に弾かれる。
けどそれでもいい。こっちから高度を稼ぐ方法が無い以上、あっちから来てもらう必要がある。
とはいえ一発では反応が薄い。次の弾となる魔力を込める。
前は意識して魔力を渦状にしていたが、今回は自然と渦巻き吸い込まれていく。装填完了まで、手間も時間もかなり余裕が持てる。
2発目、偶然ながら蜂の内の1匹の目に命中。やはり外傷を与えるには至らないが、注目を引くには十分だったようだ。
その1匹の突撃を皮切りに、集団でこちらに向かってくる。
今回の確認事項はあくまで実践的な威力かどうか。戦い方は不問、その中で何発か撃ち込めればいい。
銃だけじゃ手が足りない数の集団。銃を咥え魔力を込めながら手を空け、併用するハルバード。旋回を加えた跳躍で、広範囲を薙ぎ払う。
何匹か落とした着地、振り向きと同時に銃を構える。
一番近い蜂へ射撃。ダメージが通ったかは分からない、が、衝撃で吹き飛ぶ。
次の装填を…いや、まだ内部に魔力を感じる。
もしやと思いつつ引き金を引く。発射された次の弾がさっき蜂のに当たり、翅から力が失われ落下していく。
装填数が増えたのなら、使い勝手は大分上がる。
とりあえず威力の一例は見れたんだ、ここからは好きにやらせてもらおう。
というか押し寄せる集団に対し、丁寧な手段を取ってる余裕なんて無い。
目で地形を、耳で標的の位置を確認し、ハルバードを振るう。
合間、地面で跳ねる時間も無駄にできず銃撃。撃ち切ってみて1装填最大3発、戦力として数えるにはちょっと心もとない。
けど処理が追い付かない。無理矢理体を動かし、強引にハルバードで薙ぎ払い。
同時に来た2匹を処理したが、その裏に隠れてた3匹目に気付かず──
しかし、その突撃はこちらまでは届かなかった。
高く跳躍したロロが、その蜂を捕らえていた。