164話 今の戦場③
大熊が黒い煙へと消え、巨大な氷塊が残される。
凍結に使わなかった首が川を挟んだこちらまで伸び、したたるように落ちる水の塊、それが瞬時に戦いに赴く前のナナノハの姿になる。
「やはり『これ』は怖いものでしょうか?」
制御を失った水の首が崩れ、川へと流れていく。そして形が残った頭蓋の氷が、ナナノハの背後に落下する。
「いや、ただ驚いたっていうか…ナナノハってそういう事できたんだなって。
魔界の方では戦う所、見れなかったし。」
色々思うところはあったが、真っ先に気になったのはそこだ。
「ヒュージ・フラベラ襲来の時、ですね。あの時は水の供給が取れなかったので……。
でも、今回は川が近くて丁度良かったです。お陰で普段は複数人で挑むのですが、今回は単騎で十分でした。」
ナナノハが手を打ち、声の調子を変えて言葉を続ける。
「その上で! 本題です。
最近の『ボス』は、強さの方向性こそ多様ですが、総合的な強さは大体あんなもんです。
その上で、どうでしょうか。」
一度現状を見て、と言ってたのはそういう事だろう。
このレベルの戦いについてこれるか、と。
「…ちょっと、自信無くなってきたかな……。
あのサイズ相手とかだと攻撃力にはなれそうにないし、むしろ邪魔になりそうだし。」
硬さとデカさに強さが振れたタイプのなんだろうなとは思う。けどその強さが別の方面で同レベルと思うと、自信を失うには十分すぎた。
「別に恥じる必要はないですよ。この『討伐』には魔界からの派遣組からも、大丈夫と判断したひとしか参加させてません。」
「…じゃあそれ以外にもやる事があるのか?」
ナナノハが指で「3」を示した後、話とともに1からカウントアップさせる。
「今の活動は3つに分かれてます。今回のようなボス指定されたのに挑む『討伐』、その周囲の活発な怪異を鎮圧する『掃討』、穏明寺院と東妖衆の情報を集め集積する『情報』の3組。
臨機応変な移動もありますが、大体はどれか専属で動いてもらってます。」
「『討伐』と『情報』はともかく『掃討』って?」
ボス戦でない戦闘枠が気になり、問いで返す。
「ボスがこう強大化したのは、地域的な魔力量の増大したのに原因があります。
なので『討伐』の補助として、先駆けて周囲の怪異を鎮圧させる事でボスの弱体化を図る役割です。
『討伐』ほど激しい戦いでもなく、人手が必要なところなので、一考いただければ。」