153話 試行錯誤⑦
「えっと……これはどういう状況なのでしょうか?
ユートさんの魔術、ですよね?」
事は一瞬、ハルルがウルフを地面に押さえ付ける形で制圧完了していた。
「それが、呪いの対処を試行錯誤してたら、色々あってこうなって。」
「…ちょっと、詳しく聞かせてください。」
どうやらナナノハからある程度聞いてるようではあったが、最初から順に説明した。
呪いを受けた経緯、完全な解呪は難しいという事、少しでも影響を軽減する為に実験的な事をしてた事。併せて人狼という存在の事も。
長い説明になってしまったが、その間、呪いの意思が宿ったウルフは拘束から抜け出せずにいた。
というか、途中からは抵抗を諦めたようだった。
「それで、今後の展望…いえ、手伝える事はないでしょうか?」
「ハルル忙しいんだろ? これは俺のやらかしの結果、付き合わせるのも悪いし。」
「寧ろ手伝わせてください! 趣味とはいえ魔術の研究もしてる側として、魔力そのものが意思を持つその術に、興味あります!」
これまで見た事の無い程の食いつきに下がりながら、どうにか言葉を絞り出す。
「でもほら、他に例も…あるんじゃないかな。意思を持った魔力って。」
ナナノハの名前を挙げかけたが、明かしていいのか分からず誤魔化すような形になってしまった。
「隊長は出会った時には既に人と間違える程の自我がありましたし、本人もそうなる前の事は覚えてないとの事。発生に偶発的な所も多くて、人格形成に至った要因を推察する事すら不可能に近い例なのです。
その点! ユートさんの『これ』はつい最近の発現、その成り立ちも今後の経過も、観察するのにとても良い時なのです!」
「…とりあえず、手の下。」
身を乗り出したハルル、その体重は抑えてる手の下のウルフにかかっていた。
「あ、ごめんなさい!」
慌てて手を離す。拘束が解けても、ウルフ大人しいままだった。
苦しがりはしてたけど、だからといってハルルを恨むような様子も無く。最早ハルルの番犬にすら思える落ち着きぶりだった。
「ほら、お前、流石に出しっぱなしでしんどくなってきてんだ。戻ってこい。」
そう言い手を伸ばす。が、バックステップと威嚇。簡単には寄らせない、そんなオーラを放っている。
だけどハルルが手で抑制すると、不満の色を浮かべながらも抵抗をやめ。
あちらから触れられて、感じ、分かった。触れさえすれば、こちらからの操作で戻すことができる、と。