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146話 専門家②

 医師のおじさんの誘導に従い、診察室の奥の扉の向こうへ。

 その先にある廊下、そこの一室へと通される。

 表の医師は前の診察室に戻り、代わりに部屋に待機してた女性ひとり。

 名札にはさっきの人と同じ苗字で「根津 珠美」とある。


「ふーん、何か『混じってる』ねぇ。

 それで今日はどういった用件だい? 少年。」

 見た目は普通の人間、でもなんか雰囲気に違和感を感じる。その原因は何だと思いかけたが、今の目的はそうじゃない、と振り払う。

「えーと、呪いを受けてしまって、その対処で。」

「珍しいな、この時代に。誰かの恨みを買っての呪いか? それとも流行りに乗って(おこな)った呪術が暴れたか?」

「それが、人狼の呪いで──」

 言い終わる前に、言葉を割り込まされる。

「人狼!? なるほどぉ妙な懐かしさを感じると思ったらだからか!

 という事は模造ではなく古典的なものだな?」

「た、多分そうかと。呪いを受けた満月の夜以外はあまり影響ないし。」

「…だが妙だな。ちょっと歯を見せてみろ。」

 喋る時に少し見えたのだろうか。指で上唇を上げ、牙となった歯を見せる。

「なるほど、呪いを伝染させる立派な毒牙だ。だが、だからこそ妙だ。」

「…それはどういう?」

「元来の人狼の呪いは、満月の夜以外での判別は極めて困難だ。『人狼に食われるかもしれない』に加え『隣人が人狼かもしれない』という恐怖も合わさった呪いだからな。故に、このような明白な証拠が残る筈が無いのだ。

 世代を経て呪いが変化したが、あるいは呪いが不完全か。いずれにせよ、興味深いな。」


「それで、呪いを解く事って…?」

 逸れかけた話の流れを、強引に本筋に戻しにかかる。

「前例で言えば不可能、というより解呪の前例は無いのだ。

 人狼疑惑のあった者は処刑され、それを逃れる生存者は存在を隠匿し、全盛期には解呪するには至らなかった。

 最後に見た個体は300年と少し前ほどか、あぁ君のその状態も含め、じっくり観察研究したいところだよ。」

「…つまり可能性は無い、と?」

 反論を誘う為の、あえて逆だと思う言葉。

「いいや、理論で言えば可能性は考えられる。

 試せる解呪も当時より多いし、別のより強い呪いで上書きする方法もある。」

「より強い呪いって、解呪も困難なこれよりもっと強いのが?」

 その人の口角が上がり、隠れていた牙が見える。

 自分のものより細く鋭く、僅かな間でも「時間を忘れて見惚れた」と思う妖艶さがあった。

「この『吸血鬼』ならば、人狼の呪い如き簡単に打ち負かせよう。

 今すぐにでも試せる手段だ。」

「それはそれで弊害があるんじゃ…?」

 吸血鬼と言えば、あまりにも有名な弱点──

「ま、日中外出できんし、人間らしい生活は諦める事になるな。

 ついでに血に耐えられず吸血鬼になれず命を落とした者や、血液とはいえ『人を喰う』事に耐えられず自ら命を絶った者もおった。」

「…とりあえず、確実ではない、と。」

 聞いてると、人狼よりもデメリット大きいような……。

「私としてもそんな事で解決したくはないからな。

 今や貴重な人狼、色々観察したいし?」

「けど、当時の人狼を見た事があるんじゃ? それが何で今更?」

「流行ってる時は興味が無かったけど、終息してから気になり始める。

 そういうのってあるだろう?」

 …分からなくもないのが何故か悔しい。

「汎用的な呪い軽減の札なら処方できる。その上でダメならその時は来な。

 つか用事が無くても来てくれると、私としては嬉しいなぁ。」

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