145話 専門家①
「……で、うちに回ってきた訳か。」
これまでの経緯を話し、通話の向こうでキリが言う。
獣人の類であり、頼れそうな相手として思考に挙がったのがキリだった。
「まぁ、そういう事で。」
「つってもなぁ、化狸と人狼、種族と呪いじゃ勝手が違いすぎんぞ。
ただ、確かに人間より怪異に近い状態かもな、それは。」
「…なんだかまだそういう実感来ないんだよなぁ。」
身体に違和感はあるとはいえ、意識してない時はそこまで気にならない程度のもの。
時折呪いを受けてる事を忘れるくらいには、小さい影響。今のところは。
「で、本題だけど、うちも解決法は知らん。
呪術は感覚的に使えるってだけで、他の呪術がどういう仕組みでどういうものなのか、それは管轄外だ。」
「まぁ、それはそうだよな……。」
想定してた返答ではあった。そんな簡単に解決できるなら、ソウクロウも苦労はしてないだろう。
「けど、知ってそうな奴なら知ってる。」
「本当か? 教えてくれ!」
次に誰を頼ろうか考えかけてたところにで、思わず一気に食いつく。
「うちも何度か世話になった医者だ。表向きは普通の医者だけど、うちらみたいなのの対応もしてるとこだ。
ちょっと待ってろ、場所と合言葉送る。」
そして翌日。
キリに教えてもらった場所には、確かに一つの診療所があった。
「根津クリニック」、特に隠し事をしてる気配は見せず、普通の診療所にしか見えない。
キリに「手順」は教えてもらった。
普通の診察待ちと同じように記入シートを受け取り、順番を待ち。
待合室に何人か座ってるが、その人達からは魔力は感じられない、至って普通の人間だろう。
ここまで普通な場所だと、キリを疑うつもりではないが、不安にもなる。
他とは違う緊張の中、やがて順番が来て呼ばれ。
キリから聞いた「手順」を思い返しながら、診察室へ。
「今日はどうなさいました?」
「『アズマさんからの紹介で』。」
これが合言葉、そう聞いた。
もし違ったらなんて緊張とは裏腹に、医師のおじさんが立ち上がり、奥にある扉へと促される。
「…こちらへどうぞ。」