129話 追加メンバー①
朝からエンパイアハントのサイドストーリーに熱中し、気付けば昼過ぎ。
なんと雑な週末の過ごし方か。けど、たまにはそういう過ごし方もいいよね。
…いうてゲーム内でのイメージを定着させる事で魔術熟練にも繋がるし。
でも流石に腹は減ったし、家に食えるもんろくにないし。
一区切りついたとはいえ続きが気になる。いけるもんなら完結まで駆け抜けたい。
ならばと手っ取り早く、コンビニで何か調達を。
と出掛けたところで見かける、見慣れぬ姿。
お隣さんだろうか。以前は自分とハルルの2人しか住んでなかったのに、いつの間に?
いや、変に気にしても悪いか。そう思い去ろうとしたところで、あちらが気付く。
「あ、どうもです、ユートさん。」
誰だと聞き返そうかと思ったが、聞き覚えのある声、そして何かに似てる気がする風貌。
言葉に迷ってる間に、相手が言葉を続ける。
「こちらでは初めましてでしたね。
改めまして、隣に引っ越してきた、清水 七葉です」
といつかのような深いお辞儀。それにつられ、こちらも同じように。
「ってナナノハって…あのナナノハだよな? わざわざ越してくるとか、何か動きがあったのか?」
流れですんなり受け入れかけたところで、一歩踏みとどまる。
こっちで活動してたなら、既に拠点というか家か宿かはあったはずだ。
「あれ、ハルルさんから何も聞いてないです?」
「うん、全く何も。」
多少漢字も扱い慣れるくらいにはFINEも使ってるが、そういった話は無かった。単に伝達忘れだろうか?
「じゃあ事後報告になってしまいましたね……。
このアパート、土地ごと買い取ったのです。」
「とちご…えっ?」
「名義だけ他からお借りしましたが、実質的にそうですね。
ユートさんの生活には変わりないよう尽力するので、ご安心を。」
「ってそうじゃなくて、そこまでする理由って一体?」
「都合のいい場所だったんです、魔界の人を受け入れるのに。
ユートさんを含め関係者しかいなくて、渦中にあり、買い取りプランが現実的な額の立地。
ついでにこの場がかなり安全な場所になるので、形式上巻き込む形になったユートさんに対してのせめてもの誠意、という理由も含まれてるそうです。」
明らかにナナノハの本意とはズレたような最後の言い方。自分の扱いがいいのは実際ありがたいが、相変わらず裏の作為的なものも感じる。
「ところでなんだけどさ、ナナノハって何者なんだ? 実際に見た目を変えてるん、だよな?」
ついでに気になって仕方ない事ひとつ。
ハルルの場合はチョーカーに刻印されてる魔術で、キリとかと同じように一般人には認識を誤魔化してるだけで、自分には本来の姿が見えている。
けどナナノハは今もこうして、向こうでの見た目とは違う黒髪で見えてる。
何より、以前触れた時の異様な体温の低さ、忘れる方が無理がある。
「それ、ボクも気になってたんです。
『ナナノハの知り合い』ではなく『こちらの世界の人』の視点だとどう思われるのか、聞かせてほしいです。」
意外な喰いつき。言葉を選ぼうかと少し迷ったが、回りくどくなるよりは、思った言葉をそのまま。
「やっぱりなんか『普通じゃない何か』なのか?」
「そうですね、あちらの世界でもおそらく唯一です。」
ナナノハの見た目が透けていき、向こう側が透けて見え、ガラスのように…いや、輪郭はそのままに透明な水の塊となる。
「…自律型魔術式武器『Floody』、だそうで。
水を媒介とした人工物、要するにAIみたいなものですね。」
「武器って、別にそういう風には全然見えないけど。」
「擬態、侵入、暗殺。環境の条件さえ足りれば、大規模な破壊行動も可能。
ボクを制作した人は、そういう『便利な兵団』を作りたかったそうです。」
色々と経緯はあったのだろうが、やっぱりそういう事をするようには見えない。
というか、そこまで聞いておいてなんだけど。
「…やっぱり既にナナノハを知ってる先入観を切って考えるの、厳しいかな。。
けど、そういう適任には心当たりあるかも。」
「本当ですか!?」
「『事情を深くは知らない』ってポジションの奴だ。
連絡先取り次いでいいか、ちょっと聞いてみるよ。」