128話 渦巻く変化④
いつもの帰りの路、バスの中。
1年かけて見慣れた景色が、窓の外を流れていく。
けど隣の席にいるのは、この場で見るのは慣れない相手。
去年クラスメートだった化狸、キリだ。
「キリっていつも電車だったろ? 何で今日はわざわざバスなんだ?」
「たまにはいーだろ、どっちみち1本で時間は大差無いんだし。
…それにあんな中途半端な知られた方のままじゃ、落ち着かねーし。」
さっきのアイナとかいう化狐とか、それ関連の事だろう。
「俺としても気になるところだし、助かるけどもさ。
あのアイナってやつ、知り合いだったのか?」
「ま、そんなとこだ。ここに越してくる前だから、4年振りか。
姉貴の組繋がりの知り合いだ。」
「…姉貴って、もしかしてさっき名前が挙がってた?」
「そ、小野里 真理、うちの姉貴。
だから知り合いっちゃ知り合いだけど、ぶっちゃけ苦手な奴だよ……。」
とため息交じりに。
…なんか今、結構なワードを聞き流したような。
「まって『組』ってどういう!?」
「多分、想像してる程仰々しいもんでもねーぞ。昔は荒事も多かったらしいけど。
うちらは妖術で正体隠して出歩けるからいいけど、そうじゃねぇ奴もいるからな。
そういう奴らの居場所になってんのが、組の連合『東妖衆』だ。」
「でもあいつ、大分好戦的な感じだったよな。」
「…少ないとはいえ、荒事がねーわけでもねーからな。
例えばお前、うちの時は術を見破るのに時間がかかったけど、アイナの時は最初から『見えた』んだろ?」
「…そういえば、確かに。」
自分にはキリが本来の狸人の姿に見えてはいるが、認識を誤認させる術によって、基本的には普通の人間だと思い込む。最初の頃、自分もそれを体験した。
さっきのやりとりを見ても、アイナも同じ術の影響下にあったはず。
「『化狐なんて実在しない』と思い込むには知りすぎたんだよ、色々と。
例えば背景の月が隠し扉になってるのを知ったら、続編でも月があったら隠し扉に見えてくるだろ?
そういう『術が通用しない』奴が無暗に増えると、うちなんかも生活に支障が出てくる。そうならないために、活性化した怪異を抑え込む。それも東妖衆の役割のひとつだ。」
「じゃあアイナが遣わされたのも、その関係か?」
ソウクロウが言ってた環境の変化、去年対処して回った数多の怪異。
それと無関係とは、到底思えない。
「だろーな。
さらに言や、うちが一人暮らし勧められたのも、多分この件の布石だ。
アイナの面倒見てやれーとか、いきなり言いやがって……。」
その後の深いため息、気力無く垂れた耳。それらを見るに、キリ自身にとっても想定外の事なのだろう。
「……大変だな。」
「ユートもあまり他人事じゃねぇぞ。
あいつがわざわざ意図して送られた以上な。」