121話 訪れる変化②
一応挑んではみたが、やっぱりダメだった。
このウルフの体では、玄関のドアを開けられない。
「ドアノブを引く」というアクションに、どうしても無理が生じる。
だがこうなった以上、後悔しても仕方ない。
気を取り直し、目的の遂行を。
こういう魔法関係に詳しいアテ。
このアパートの2階に住んでる、異世界から来たエルフ、ハルルだ。
それにしても慣れない体、歩きにくい。
平地ならまだどうにかなる。けど、問題はこの階段だ。
後ろ足の場所が見えず、探り探りで角にぶつかりまくる。この体に怪我とかの概念はないだろうけど、痛いもんは痛い。
やがて上るのが恐る恐るになりながらも、どうにかハルルの部屋の前まで辿り着く。
…けど、どうやら留守らしい。窓の向こうに明かりは見受けられないし、インターホンにも反応無し。
仕方ないか、と廊下を引き返す。
…まってこれ降りるの?
視点が低い下り階段ってこんなに怖いもんなのか? 1段降りる度に角が近いし、なんかやたら角度急に見えてくるし。
しかも踏み出してみて思ったけど、頭が低い構図でこれ、足滑らしたら顔から地面に直撃だよな?
逆向きにしようにも戻るのがもっと怖い! この場で向きを変えるのも無理!
しっかり一歩ずつ、前足を踏み出して、安定を確認してから後ろ足を……。
……階段上って降りただけなのに、既に結構な気疲れ。
でもハルルがいつ戻ってくるか分からないし、連絡手段は部屋に閉じ込められた。
仕方ない、ちょっと遠いが、別のアテに行ってみよう。あいつらなら常にいるはずだ。
けど、その前に気が落ち着くまで休んでいこう……。