120話 訪れる変化①
魔界から戻って翌日朝。
なんだか体に違和感が。
魔力濃度の差とか、そういうやつなのだろうか?
でも意識ははっきりしてる。いつもの寝起きと同じ程度には、だけど。
なら、体動かしてるうちによくなってくるかもしれないか。
ていうか床に落ちてたんだな。それで起きなかったってよっぽど……。
…指先の感覚が無い?
ていうか全体的に違和感どころじゃなく何かがおかしい…?
とりあえず壁によりかかりながら…あれ?
灰色の被毛の前足…?
…………。
…風呂場の鏡で、予想は確信に変わった。
いつも召喚で使ってる四つ足の獣ウルフ、それが映ってた。
で、ベッドの上では俺の本体が寝てるように倒れてて。
…なんて状況を冷静に受け入れちゃってるの、我ながら慣れたもんだな。
とはいえこの状況、どうしたものか。
このまま放置して元通りならいいんだけど、待つだけというのは流石に不安まみれだ。
となればその手の専門家に。幸い仮にも自由に動ける状態ではある。
そうとなれば、さっさと近場の心当たりに。
……と順調というわけにはいかず、問題発生。
ドアノブが高くて届かない。
いや、ドアに寄りかかりつつ後ろ足で立てばどうにか届く、届きはする。
けどそこで次の問題、鍵を開けられない。鍵のつまみをつまんで回す、この前足では、それすら困難。
試行錯誤の末、爪で引っかけて回す方法に。何度か惜しい音はした。
…よし、開いた。あとはドアノブを下ろせば。
鍵のつまみに比べれば、レバー型のドアノブを引くくらい、なんてことない。
もたれかかった自重で、ドアが開く。
見慣れた景色、それを見上げる慣れない視点の低さ。
現実感と非現実感の組み合わせは、振り切ってた魔界の時よりも奇妙な感じ。
とりあえず第一関門はクリアだ。
…待って、今後ろから嫌な予感の音が。
玄関のドアって、勝手にしまるもん…だよな…?
出る時は押せばいいだけだったけど、逆は…?