119話 撃退を成し②
翌朝早く、こっそり医務室を抜けてきた。
エンに「あの子の事を頼む」と残して。
そしてナナノハに案内された施設の一室、なにやら魔法的な大型装置のある大部屋。
借りてたチョーカーは既に回収され、言葉が分かるのは元から日本語も話せるナナノハとだけだ。
「あいつ、大丈夫かな…?」
開通できるまでもう少し時間があって、部屋の隅で待機中。
「休ませれば大丈夫と言ってましたし、本人とエンさんを信じましょう。」
「いや、そうじゃなくて。」
「もし暴れても、あそこなら流石に周りの人の方が強いですし。」
「そうじゃなくて!」
「…むしろユートさんも大丈夫か怪しい感じですよ?」
そりゃ思い残す事はあるけど、そこまでのものに見えるのか?
「だってさ、もし今度また会う事があったらその時まで覚えててくれたら嬉しいけど、それっていつになるか分からないわけじゃん?
ならいっそ、俺の事忘れて違う幸せ探してほしいって気持ちもあって。
…ここの行き来って、やっぱ難しいんだよな?」
「まぁ、見ての通り。」
専用部屋を取るほどの装置に、それを稼働させる為に待機してる4人の魔術師。
結局この日まで10日かかった事も、簡単には行えない事の裏付けだ。
「今ならまだ、呼べば間に合うと思いますよ?」
「……いや、いっそ捨てられたって思われるくらいの方が気が楽だし。」
「そう思う時点で、未練じゃないですか。」
「そうだよ未練なんてありまくりだよ!
あいつの事もだし、つきっきりであまり異世界探索できなかったし、思いつき行動ばかりで世話になった借り返せてないしさ!」
「最後のは十分な働きをしたと思いますが……。」
「俺としてはそういう実感も無いの。あれだってお膳立てされまくりだし。
だからせめて、俺があいつの悪影響にならなきゃいいんだけど……。」
「…じゃあ、難しいとはいっても可能性はあるんですし、その時の事も考えましょ。」
「……それもそう、だな。」
やがて時間が来て装置が稼働し、中央に立ち。
転移は一瞬。まるでアニメのシーン切り替えのようだった。
…まってなんか落ちてない!? 座標不安定とかそういうやつ!?
だけど着地した先は固い地面ではなく、風船みたいな感触。ナナノハの魔法か?
雑草の茂る空き地、電車の走る音。
向かいのビルは、見慣れた駅前の物だった。