118話 撃退を成し①
意識がうっすらと戻ってくる。
程々のベッド、見覚えはある天井。ここはあの医務室か。
…なにやらお腹のところに重みがある。
触ってみると弾力のあるざらざら、特に温度は感じない。
最初の時以来まともに触れはしなかったが、間違える訳は無い。あの子だ。
…このままじゃちょっと起き上がれない。寝てそうだけど、どかして大丈夫かな?
いやちょっと動いた。起きてるなこいつ。
「気が付いた?」
というエンの声。
ちょっと子供ドラゴンの場所をずらさせてもらいながら、身を起こす。
「大体の察しはついてるけど、一応何があったか聞かせてくれる?」
何が起こったのか自分でも明確に把握できた訳ではないが、気を失う前の事を思い返す。
「確かこの子に呼ばれて、引っ張られるような変な感覚がして。
その後、この子に乗り移ったような感じになって、魔力が切れて誰かが拾ってくれるところで……。」
自分で言ってて、実は夢だったんじゃないかと思うような話だな。
「意識の過剰接続ね。
本来なら竜騎手が竜と連携するための手段だけど、パワーバランスが偏って一方的に取り込まれるようになってしまった、その結果。」
「…それで無茶させちゃったみたいなんだけど、こいつは大丈夫なのか?」
「もう衰弱の方は心配いらないくらいには回復してる。
だけど魔力を消費しすぎちゃったから、当面は安静と経過観察ね。」
という事は、こいつが休む場所として「ここ」を選んだのか?
そういえばツノにかけてあった輪が無い。前に着けてたものは騒動で紛失したのかもしれないけど、改めて着けられてないのは不要になったからだろう。
「全く、その子もだけど、あなた自身も無茶して……。
でも、その活躍もあったから、最悪の被害は避けれた。倒壊は無かったし、軽い修繕で済むって。」
相変わらずこいつの感情表現は見た目では分からない。
けど、今なら分かる。こいつはこの状況が「良い」んだ。
そして安心しきってるのを見て、俺もそれに安堵を感じてる。
いつの間にかあの少し離れた距離感に慣れて、それが日常になっていた。
それが今の距離に居てくれる事がうれしいくらいに、こいつとの時間が特別になっていた。
けど……。
「それでひとつ伝言を頼まれてたんだけど。」
そう改めて切り出すエン。
それを聞きじんわり思い出した事が、答え合わせのように発せられる。
「転移ゲートの目途が立ったって。
明日の昼前だから、今日が最後の……。」