117話 災禍と相対し②
『力、貸して。』
それは言葉というより、感情そのもののようだった。
それが子供ドラゴンの言葉と実証するかのように、言葉の直後にその子が駆けだす。
2回転びながらもやめる事は無く、3度目の跳躍で空へと飛び立っていく。
同時に、奇妙な引っ張られる感覚。
風の中を抜ける肌触り、風の音。
今、どうなってるんだ?
さっきよりクジラ軍団が近くて、建物が下に……。
…もしかして、これ、あの子の視点か?
体の感覚もなんか不思議な状態。自分の意思の外で動いて、翼で宙を掻いて。
そしてさっきと同じような、意思のような言葉。
『力、使って。』
やっぱりこれも、この子がやってる事、だよな。
「使って」って…いや、動かそうと思えば俺の意思で動いてくれる。この体の手足も、魔力も。
なら、俺ができる限りのイメージを。こいつが成長した後、成体の竜。それを、本体を覆うように被せる。
エンが言ってた通り、確かに魔力は無尽蔵かと思う程にある。大きく強いというイメージも、簡単に実体とできる。
前方からの影、更に追撃の為に下流へ戻ってきたエンだ。
驚きの様子とともに、こちらに向かってくる。
「あなた、どっちの……ううん。
今、動ける?」
体の調子を確かめる。「召喚」した大人ドラゴンの体、大きな体躯にも関わらず、思い通りに動かせる。
そののち、エンの問いに対して静かにうなずく。
「分かった。
この際、多少手荒になってもいい。あいつらの誘導を手伝って。」
そう言い残し引き返し、クジラの群れに向かっていく。
イメージの実像化でサイズは盛った。
それはさっきのエンとのサイズ感の差でも確か。
でもそれ以上に思った以上にクジラがでけぇ。
高さだけでも今の自分のサイズの3倍は余裕である。
それが十数匹。広範囲魔法とか使えればよかったが、生憎そういうのはまだできない。
物理的な手段でこれに…どうすればいいんだ?
そう思考を巡らしてるところに、援軍の影ひとつ。
あれは…初日に見た黒い鎧の竜人?
一体何を…?
「先頭を狙って。」
思考が追い付く前に、まばゆい閃光。反射的に目を腕で覆う。
そしてこっちが本命だろうか、さらに鋭い閃光ひとつ。
目を守っていても、それでも眩しい。こんなもの、直視してたらひとたまりもないだろう。
そして光が引いて場を確認した時には、そいつはもういなくなっていた。
この際なんだっていい。鎧の竜人が言った言葉に反する理由も見つからない。
フラッシュで揺らいだ群れ、その中で先頭に突出した一頭。
そいつに、ゲームでは召喚体への移動に使うワイヤーを魔力で作り出し、胴回りを捕らえる。
舵取りとなる先頭を制せば後続も一緒に、そういう事だろう。
列の後方では流れから外れそうになってるのを、エンや竜人部隊が誘導してる。
ワイヤーを思いっきり引き切る。
確かな手ごたえ、反発するのも力で抑え込む。
ワイヤーが切れ崩れ去った時には、先頭は大きく向きを変えていて。
それを追うように後続が、急な曲線を描く。
魔力が弱まり、創り出した実像が崩れていくのを感じる。
直後の体の感覚は、本体である小さな体。
状況が状況とはいえ、あちらから求めた事とはいえ、病み上がりに無茶させすぎちゃったかな……。
…………。
飛ぶのもしんどいくらいだったのが、ふわっと受け止められる。エンだろうか?
意識がこの場から離れていくのを感じる。