106話 より魔術は「形」になった②
ナナノハに連れられ、屋上へ。
そこからの風景は、予想を逸していた。
地上の入り組んだ地形から一転、高さが統一された建物の屋根は、溝によって区切られた平地かと錯覚する程に開けた空間。
何らかの意図があっての設計だろうか。とはいえ街全体に及ぶ規模に、圧倒される。
「…それで、期待されてるとこ悪いんだけど、戦力として数えられる程かどうか……。」
「お望みとあらば戦力外、単なる護衛対象として扱ってもいいですが、求めてるのはそういうのではないのでしょう?」
「それはまぁ、確かに。」
ただ見学するだけでも面白そうではあるが、目的はそれではない。
こっちの世界だからなのか、術がなめらか。調子が良くなった今の内に慣らしてみたい。
「では、ひとつお手合わせ願います。」
ナナノハの青い長袖の下から、水が触手のように伸び、氷結し、湾曲した棒状の武器となる。
感覚的に分かってきた。ナナノハとの距離は開いているが、ギリで自分の射程圏内。
ナナノハが構えると同時に、作り出したウルフを向かわせ先制を狙う。
対するナナノハ、棍の両端の間に糸状の水。続く構えを見て分かった、弓矢を模した形状か。ただ弓自体はしならないから、ゴムで飛ばすような原理か?
ウルフを狙われるが回避が間に合い、放たれた水の矢が地面で弾ける。
その隙を狙い。地面を蹴り仕掛けさせる。
しかし棍へと扱いを戻した弓で受けられ、すれ違いながらナナノハが踏み込んでくる。
咄嗟にこちらも柄長の斧を。これもこっちの世界だからだろうか、依り代無しですっと出せる。
並行して、ウルフのバックアタックで挟み撃ちの形に。
だけど斧は棍の湾曲の上を滑らされ地に、ウルフはナナノハの右腕に新たに作られた氷の手甲で弾かれる。
いくら斧が振るには軽いといえど、体捌きがついてこない。ウルフの方に意識を割き、斧は先端そのままに柄の裏に屈み隠れる。
ナナノハの冷静な対処、こっちの防御は意に介さず、棍の逆側でウルフを大きく弾き飛ばす。
そのまま弓としての構え、決着と言わんばかりに水の矢の一射。
「単騎で多対一を作れる…なるほど、ハルルさんが面白いと言うだけありますね。」
ナナノハに手を引かれ、立ち上がる。
「でもやっぱ武器が全然だし、まだまだだよ。」
「ですね。でも経験を積めば大きな戦力になれる、そういうポテンシャルは感じました。」