100話 養生と思案の末②
「どうでしょう、動けそうですか?」
ナナノハのその言葉を確かめるため、立ち上がり軽く体を動かしてみる。
まだ少しだるさは残ってる。けど活動するのに問題にはならない程度。
「大丈夫、だと思う。」
「なら、話を進められそうですね。」
部屋の隅に置かれていた布袋を、ナナノハが拾い上げる。
「こちらの世界の一般的な服です。その服のままでは目立つので。」
「…なんか悪いな、こんなに色々してもらって。」
「まぁ、その…『向こうの世界の協力者』と伝えたら、媚びを売っておけと言う人も少数ながら居まして……。」
…あまり関わりたくないところだな、その辺は。
「それはそれとして、ヴェリダール…ハルルさんの友人とあらば悪くする訳にはいきませんしね、個人的にも。」
「その、ハルルとは仕事仲間、って認識でいいのか?」
「形式上はそうですね。
でもその前にお世話になって、結構な借りがあって。
なのに今はボクの方が立場上は上で…そんな複雑な感じです。」
思考をそのまま形にしたかのように、流れ出るかのような言葉。
表情の変化が少なく感情が読み取りにくいナナノハだが、良い関係である事は伝わってくる。
受け取った布袋の中身をベッドに広げてみる。シンプルな布地の服の一式だ。
上着を脱ぎシャツに手をかけたところで、ふと思う。
「そういやナナノハって『どっち』なんだ?」
着替える上で、もしかしたらの問題。まだ部屋に居合わせている人の事。
雰囲気で勝手に男と思っていたが、別に確かめた訳じゃない。
少年とも少女とも見える小柄な体躯、ボディラインの隠れる余裕のある服、幼さがあるが故に判断の難しい声。
どっちなんだ…?
「『どっち』って…あっ!」
深く言及する前に察してくれたようで、すぐに言葉を続けられる。
「ごめんなさい、外で待ってますね!」
そう言い慌ててドアに向かうナナノハ。という事は…?
…いや、昨日ナナノハに触れた時の、生気を感じないどころじゃない異様な冷たさ。そもそも自分の常識で測れる存在なのだろうか…?