表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
truthypanion~トラシパニオン~  作者: 神無月かなめ
7/15

透き通る音色の中で鳴り響く銃声

よければブックマーク登録と評価、よろしくお願いします!していただくと作者のモチベがググッと上がります。そして、できれば感想などもお願いします!感想を頂いたその日は、作者がハッピーな気持ちで過ごせます。意見なども頂けると嬉しいです。

『とにかく撃つんだ!』


 隊長が刺され動揺が走る中、一人の警備兵が無線機越しに叫んだ。その言葉に続き、次々とほかの警備兵も無我夢中でその巨大な敵に対して銃を発砲した。だが、そこに先ほどまでの統一された動きはなく、一人一人が自分が生き残るために必死になってただ撃ち続けていた。


 私たちも動くべきだろうか…。だが、動くとしてどう動けばいい?


 私は、隣にいる澪の方に視線を移した。澪は銃を構え、警備兵たちの戦いを何かを待つかのようにただ静かに眺めていた。いつもの戦闘大好きな澪なら飛び出していきそうなものだが、今回はとても落ち着いていた。


 そして次に私は、剛を受け止めた状態で抱きかかえている透に視線を移す。透はただ、荒い息を吐き続け肩を上下に揺らし痛みに苦しむ表情をした剛を見つめていた。


 すると、剛は血の滴る口元の口角を少しだけ吊り上げ、小さな笑みを作った。


「よかったなぁ…。最後に【BFF】の歌が聴けて…。本当に…。よかった…」


 剛は死の間際、何とも嬉しそうにそう言った。だが、次第にその声は震えていき、剛の目に涙が浮かび始める。


「でも…最後に…。はぁ…はぁ…。ふぅ……会いたかったなぁ…。家族……に――」


 そう言って、瞳を静かに閉じた剛の目からは一筋の雫が零れ落ちた。


「澪、結衣。あいつを倒すぞ」


 静かに呟かれた透の言葉に私たちは銃を構える。


「待ってました!」「分かりました!」


 透の声はいつもと変わらない。だが、私は自然と感じ取った。透の怒りを。透が怒っていると感じたのは初めてのことだが、それでも何故か自然と信頼できる。そんな気がした。


「澪は、あいつの右側に。結衣は、左側に回ってくれ。左右からあいつの弱点を炙り出すぞ」


「「了解!」」


「満、敵はあいつだけじゃない。他の敵の位置を二人に共有しつつ、サソリ野郎に向かう最善のルートを示してくれ」


『り、了解!』


「いくぞ!」


 その言葉を合図に私と澪は、駆けだした。ちょうどその時、シェルター内から透き通るような歌が私たちのところに届いた。剛が言っていた陽葵(ひまり)という女性の声だろうか。その歌は、私たちの背中を押すかのように気持ちを鼓舞し、体が軽くなったかのようにさえ感じさせた。


 辺りに響く透き通るような心地よい歌に警備兵が発砲し続ける銃の音が交ざりあう。ベースやドラム、ギターの音がより一層その声を輝かせ、シェルター内から聞こえる観客の盛り上がりは凄まじい勢いで増していく。


 そして、蠍型ミュータントとの戦いが本格的に始まった――。


 ◇◇◇


 《透視点》


 結衣と澪は、満の指示のもと敵に向かって最短ルートで左右から挟む形で回っていく。


 先ほどまでむやみやたらに発砲されていた銃は、シェルター内から女性の響く歌が聞こえ始めてから少しづつ減っていった。そして俺たちは、その分自由に動くことが可能となった。


『敵との接触、残り僅か!』


「分かった。澪と結衣は接触次第、撃ち始めてくれ。俺は、弱点を見つける!」


『『了解!』』


 警備兵が動揺していたとはいえ、これだけ彼らに撃たれても弱点が現れることはなかった。胴体の部分は、大体撃ち終えたといってもいいだろうな…。それなら、敵は弱点をどこに隠す…?


『撃ち始めます!』


 ちょうどその時、結衣からの開始合図が届いた。その後すぐに蠍の側面部分に銃の閃光と共に銃撃音がこちらまで届く。


 蠍は、一度結衣の方に視線を移した後、すぐに澪の方に視線を動かした。そして、空中で揺れ動かしていたその血の滴る尾を縦横無尽に動かし始める。蠍の周辺では今もなお撃ち続けていた警備兵の姿が数人おり、その人たちはその振り回された尾に弾き飛ばされ、遠くの位置まで数度ほどバウンドしぐったりと倒れこんだ。


 その振り回された尾は、例外なく澪に対しても迫っていった。だが澪は、寸前のところでその尾にタイミングを合わせ手をつき、悠々と乗り越えやり過ごした。


 その瞬間、蠍は澪に完全に体を向け、澪に対して向かっていった。


 そして、蠍はその巨大な二本のはさみを澪に対して振りかざした。澪はそれをギリギリのところで躱す。しかし、そう長くは続かないだろう。周りにいた警備兵も澪の戦っている姿に触発されたのか、澪を援護するように攻撃を再開した。今回の攻撃は先ほどに比べて、幾分統一されたものであり、一度撃った場所は撃たず、新しい場所を狙って撃ち続けてくれた。


 だがそれでも、蠍はそれに反応することなくただ危険分子であると判断した澪だけをその巨大なはさみで攻撃し続けていた。


 このままではジリ便だろう…。一刻も早く見つけないと…。胴体は大体撃ち終わっているから、除外するとして残るはどこだ…?普通じゃ思いつかない場所…。まさか。いや、でも……本当にそんなことをするっていうのか…?


 今も数人の警備兵は、しらみつぶしに蠍を撃ち続けていた。その様子を見る限り、やはり胴体はあり得ない。


 それなら考えられるのは一つだろう…。()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことだ。そんないかれた奴がいるのか。だが、どっちだ?はさみの部分か尾か…。


 その時、澪は蠍の攻撃を躱しきれず頬に敵の鋭い攻撃が掠めた。そして、一筋の血が澪の頬を垂れていく。


 くそっ…。時間がねぇ…。ミュータントの考えなんてものは分かりようがないからな。警備兵にはさみを撃ってもらう方法もあるが、澪に誤射する可能性だってありうる。完全に信じるわけにはいかないだろう…。


【でも…最後に…。はぁ…はぁ…。ふぅ……会いたかったなぁ…。家族……に――】


 だよな…。剛さん。俺だって会いたいよ…家族に。


【見てよ!にぃに!お空にピカピカって光ってる!綺麗!】


 家族に会うためなら命だって懸けられる――。


 俺の旅は終わらない。


「見つけるまでは――」


 俺は、残っている警備兵全員の無線に繋げる。


「聞こえるか?お前ら。今から俺の指示に従ってもらう」


『なんだ、お前は!』


 警備兵のうちの一人が俺に対して高圧的にそんなことを言った。当然の反応だろう。ぽっと現れた身元の知らない今回初めて参加する奴が指示に従えって言っても従うわけないよな。だが、そんなやり取りを続ける猶予もあまり残されていないんだ…。


「剛さんの死を無駄にしたくないなら、従ってくれ。必ず勝利に導いてやる」


『分かりました。あなたの指示に従います』


 先ほどの声とは違う警備兵の一人が了承してくれた。


『お、おい!勝手に』


『そんな余裕なんてないでしょう!それで、僕たちは何をすればいいんですか?』


「話が早くて助かる。お前たちには、はさみを狙ってほしい」


『はさみって…!あんなに止まることなく振り続けられているんですよ?もし外せば、あなたのお仲間に銃弾が当たる可能性もあります』


「俺は、剛さんが信じたお前らを信じる。だから、俺も信じろ」


 剛さんとは、今日会って少しの間しか話をしていないが、それでも愛するものを守りたいという想いは同じなのだ。そして、家族に会いたいと願う気持ちも――。


 人との仲に時間なんて関係ないよな。大切なのは、その人を信じられるかどうか。俺は、剛さんの仲間を信じるよ。


『『『了解!』』』


 一気の揃った返事に俺は小さく微笑んだ。


「合図を出したら撃ち始めてくれ」


 そして俺は、警備兵との無線を切り、別の無線に繋ぐ。


「結衣、聞こえるか?」


『聞こえます!』


「よし、今から指示を出す。警備兵が今からはさみを狙って撃つ。それに合わせて結衣は、あいつの尾を狙って撃て」


 ちょうど敵は、澪に攻撃をすることに集中を削がれ、尾は空中で静止していた。


『で、でも私は…。あまり銃の精度には自信が…』


 確かに静止しているからと言っても結衣の銃の経験はまだまだ浅い。当てられる保証はどこにもないだろう。ましてや、今回はタイミングが合わなければこのチャンスがもう一度来てくれるとは限らない。だからこそ、外すわけにはいかない。


 それでも、俺は信じてる。あの時、澪を助け出した結衣を。


「澪との特訓を思い出せ。結衣ならきっと当てられる。大丈夫だ。自分を信じろ」


『はい!』


 そして、結衣との無線を切り、最後に澪に繋げる。


「忙しいところ悪い」


『別に。それで、何すればいいの?』


「五秒後、伏せろ」


『了解』


 そして、澪との無線を切り、全員に繋げる。


 3…2…1…


「撃て!!」


 その掛け声とともに一斉に蠍に向かって弾が放たれる。


 そして、俺が指示した作戦は――うまくいった。


 敵は、尾の部分に弱点を晒した。だが、攻撃に使うだけはあるらしく弱点といってもある程度の硬さはあったのだろう。弱点を潰しきる前に敵は尾を素早く動かし、銃弾から逃れた。だが、その蠍の隙を逃す澪ではなかった。澪は、低い姿勢から大きく跳躍し、巨大なはさみの上に躍り出る。そしてそのまま、敵の弱点である尾に向かって走った。


 敵は、自分の背に澪がいるのを感じ取ったのかとてつもない速さで尾を動かし、澪に向かって鋭い攻撃を繰り出したが、澪はその異常な身体能力を活かし、敵の尾に手をつき逆立ちの状態となりすぐに手を放して空中に躍り出る。その状態を維持しつつ、敵の尾の先の部分、針の付け根の部分に目掛けて銃を撃つがあまりの速さに攻撃を外してしまう。


『早いね』


 そして、空中で回転して上手く着地した瞬間の澪を狙うかのように鋭い針は澪に対して迫った。


『でも、私には敵わない』


「やっちまえ!澪!」


 その攻撃を触れるか触れないかのギリギリのところで躱し、躱す前から狙いを定めていた澪の放った弾は全弾、敵の弱点に着弾した。


「ギギィ……」


 蠍は、力なく小さく鳴き、そのままドスンと音を立てて地面に伏した。それと同時に先ほどまで届いていた透き通るような歌も俺たちに暫しの余韻を残しつつ静かに終わった。


『やったのか…?』『やりやがった!!』『おぉぉぉぉぉぉ!!』『陽葵ちゃーーーん!愛してる!』


 次々と周囲では生き残った警備兵たちが生き残ったことへの喜びを表現するかのように飛び跳ねたり、両手を高く突き上げたり、歓声をあげたりとしていた。一人だけ、別の喜びを表現してるやつがいた気がするが…。


 その後しばらくして喜びきったのか、周囲で喜びを表現するような警備兵たちはいなくなり、次々と俺のところに生き残った警備兵たちが駆け寄ってきた。


「お前、すごい奴だったんだ!」「あの作戦は、痺れました!」「今回の立役者だ!胴上げするぞ!」


「おいおい、ちょっとま…」


 俺の言葉が言い終わる前に警備兵たちは、俺を数人で持ち上げ胴上げした。


「ちょっ!降ろせって!降ろせぇぇ!!」


 そして、俺は助けを求めるかのように結衣と澪に目線を送るが、澪はニヤッと悪い笑みを浮かべており、結衣は申し訳ないといった表情でこちらを見ていた。


 澪も楽しそうだし、ここは透を売って安全にやり過ごそうとか思ってるんだろうなぁ…。くそぉぉ…。


 はぁ…。でもまぁ、たまにはこういうのも悪くないかもな。


「じゃあ、疲れたんで降ろしますね」


「あれぇ…。あぁ、うん」


 そして俺たちは、警備兵たちの歓迎もありここにしばらくの間滞在することになった。警備兵たちも新しい隊長が決まるまではここにいてほしいと縋るものだから無下にすることもできず、頭を縦に振ることしかできなかった。


 だが、今日を生き残り浮かれていた俺たちは、まだ知る由もなかった。この滞在の選択で俺たちの旅を終わらすかもしれない危険が降りかかることを――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ