作戦名《Our dear friend》
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しばらく車の旅が続き、そしてある場所に辿り着いた。
「ここは…?」
そこに建てられていたのは、建物の瓦礫などを積み重ねて作ったような人二人分ぐらいの高さのある壁であった。明らかに他の建物跡地に比べてお粗末なものであり、ぱっと見で頑丈そうには見えない。
「シェルターだろうな。こんな世界になってからは、近くで目覚めた人たちが力を合わせてこういった施設をそこら辺度で作ってるんだ。俺も目覚めた当初は協力したんだぜ」
シェルターか。ということは、この中にはたくさんの人たちが助け合って今もなお過ごしているのかな…。
「それにしても…ここのシェルターはおおきいなぁ。八十…九十…いや、百人は悠々と超えるぐらいにはいそうだな…」
こんな環境でそんなに人がここに住んでるの…!?それは何というか…想像ができない…。
「君たち!もしかして、放浪者か?」
シェルター前で警備をしていた男が私たちの姿を視認し、私たちに声をかけてきた。
「ああ。たまたま通りかかったんだ」
「それなら、立ち寄ってみてくれ。歓迎するよ」
そして、扉がゆっくりと開かれた。
◇◇◇
シェルター内は、案外開放的な作りであり、天井は存在せずとても大きな広場のようになっていた。そして、その広場内に点々と家のようなものが建てられていた。それに加え、たくさんの人がシェルター内におり、その一人一人が協力し合って生活しているような雰囲気を感じた。
「ここでは、一人一人に役割があり、その役割を自分、そして仲間が生きていくために日々こなしているんだ」
「思ったよりも人が多いな…」
透は、少し驚きながらこのシェルターに関する感想を口にした。
「普段は、食料調達班や物資調達班、探索班などが外に出ていてあまり人はいないのだが、週に一度、このシェルターに属する人全員が揃う特別な日があるんだ。そして、今日がその特別な日なんだ」
「なるほど…それで、今日はこんなに人がいるんですね」
私は、納得がいったというかのように頷きを数回ほど繰り返すとしばらくしてその見張りをしていた人が急に足を止め、何かいいことを思いついたというかのように表情を明るくさせた。
「君たちに銃の経験はあるのかな?」
「俺は、ぼちぼちって感じだけど。こっちの澪はすごいぞ」
透は、澪の方に目をやり、指で澪を指差しながら言った。
「ちょっ!透!」
「おぉ!それなら、今日の夜、俺たちに協力してくれないか?」
透は、私たちの方に目をやる。
透は、どうする?と聞いているのだろう。特にすることもないし、私は別に協力しても構わないが…そこまで銃の扱いが上手いわけじゃないからなぁ…。
「まあ、いいんじゃない?どうせ、することもないんだし。それに、銃の経験を聞いてくるってことは…ミュータントと戦うってことでしょ?最高じゃん」
澪は、乗り気の様だった。というか乗り気の理由がミュータント寄りなのは、澪らしい…。
「結衣ちゃんは、どうする?」
「私もお邪魔じゃなければ…」
「そっか、じゃあ引き受けるか。それじゃあ、満は、オペレーターを頼む」
「ぼ、僕に拒否権は!?」
「どうせ、断んないだろ」
満は、ガクッと肩を落としたがその後「ま、まあ、そうだけど…」と小さく呟いた。
「そういうことであんたらに協力するよ」
「そうか!ありがとう。それじゃあ、また夜に声をかけるよ。それまでは自由にシェルター内を探索しててくれ」
そう言い残してその人は、立ち去って行った。
それにしても本当にこのシェルターには人がたくさんいるなぁ。こんなにたくさんの人を見たことがないから少しだけ委縮しちゃうかも…。
「ねぇねぇ!あっちに面白そうなのあるんだけど!」
そんな私の不安とは裏腹に澪はいつも通りの快活な笑みで奇妙な曲線を描く胴体?を持つ謎のオブジェに興奮していた。
「待て待て。そろそろお腹が減る頃だろ?ということで、食べ物もらいに行こうぜ!」
透は、いつものふざけた様子で楽しそうに笑いながら腹をなで、お腹がすいていますと言いたそうにしていた。
「ぼ、ぼく…弾の作ってるところ見に行きたい」
満は、もじもじとしながらちらちらと先ほどから気にしていた場所を指差しながら言った。
み、みんな…意見がバラバラすぎて収集つかない…。子供かっ!
「ひ、ひとつずつ見ていきましょう」
私は、口角を引き攣らせながらも内心少し楽しみな気持ちでそう言った。そして、私たちは夜になるまでこの広いシェルター内を歩き回ったのだった。
◇◇◇
「おお、楽しんでるじゃないか」
そう言って現れたのは、先ほどシェルター前で警備をしていた男性だった。
「楽しんでるところ悪いんだが、そろそろ始めようと思う」
楽しい時というのはすぐに過ぎ去っていくもので、気付けば辺りは赤く染まっていた。
「それにしても具体的に何をすればいいんだ?」
「もうしばらくすると大量のミュータントがここに押し寄せてくるから、このシェルターを守る協力をしてほしいんだ」
「なんでそんなことわかるのさ」
透と男性の話に澪が割り込む。ミュータントと戦うことが好きな澪なのだ。理由が気になるのも道理だろう。理由を知っても実際にしてほしくはないが…。
「すぐに分かるさ。それじゃあ、俺についてきてくれ」
そう言って、その人は歩きだす。私たちは、その人の背中についていくことにする。
「そういえば、自己紹介がまだだったよな。俺は桂木 剛って言うんだ。よろしくな」
私は、明らかに動揺を隠せず、剛の顔を二度見してしまった。
剛でてきたぁ…。そうそれは、私の名前を決めるときに澪が提案した名前である。私はその時に「それは嫌、絶対に」と断ったことを思い出した。この剛さんには関係のないことだが、何故か内心申し訳ない気持ちになった。
「ぷっ。こほん。すまん。俺は、透でこっちが澪。そんで、こっちの小さいのが満で最後が結衣だ」
「了解した。仲良くしてくれると助かる。それじゃあ、行こうか」
◇◇◇
そして、私たちはシェルターの壁の外側、少し高く作られた足場の上に集まった。そこにはすでに数十名の剛と同じような服に身を包んだ警備兵の姿があった。
この人たちもこれからの作戦に参加するのだろうか…?それにしては人数が多い気もするが…そんなに大量のミュータントが押し寄せてくるのだろうか?
すると剛は、その数十名の警備兵の前へと進み、皆の前で立ち止まってその人たちと対面をするように振り向く。
「みんな、よく集まってくれた!これから、今回の作戦の内容を伝える」
剛が隊長かよぉ…。まぁ、否定はしないが動揺はした。うん、隊長っぽいといえば隊長っぽいし…そう思うと隊長の風格あるな…多分。
「俺たち『守護者』は、他の班よりも危険な役回りだ。それは分かっているな?」
「「「はっ!」」」
なんと統一された組織なのだろうか。息の合った返事に少しばかり鳥肌が立った。
「だが、私たちにはこのシェルターを守る理由がある。シェルター内にいる人たちを守る。それももちろんあるだろう。だが、俺たちは俺たち自身のために戦っている!俺たちの愛するものを守るために戦うのだ!お前たちは何のためにここに入隊した?皆の心は一つだと思う。そのために今夜は命を懸けてここを守り抜くぞぉぉおおお!」
「「「おぉぉおおおおー--!!」」」
そしてしばらくの時が経ち、そこに集まっていた警備兵の方たちは散り散りとなり、自身の配置場所へと向かっていった。そして話を終えた剛は、私たちのところに向かってきた。
「ということで今夜は頼む」
「それはいいんだが、あんたたちの愛するものって何なんだ?」
私が気になっていたことを透は、私の代わりに聞いてくれた。同じことを思っていたのだろうか。あの多くの警備兵の守る理由となる『愛するもの』がどういったものなのかは、この作戦に参加する上で知っておく必要がある。
「それはな――」
「しゃあああぁぁぁぁぁあああああああああああ」
その時、シェルター内からマイクを使ったであろう辺りに響く大きな声が鳴り響いた。
「お前ら!よく今日まで生きてくれた!今夜は、そんなお前たちに贈り物を用意してきたんだ!聞いてくれ。俺たち【BFF】の歌を!」
「おっ!ちょうど始まるみたいだな。俺たちは、この【BFF】の歌を聴くためにここで戦っているんだ。さぁ、始まるぞ!お前ら命を懸けて守るぞ!」
『『『はっ!』』』
無線機により伝えられた剛の声に警備兵の方たちが一気の揃った返事で反応する。
「それでは、作戦名〈ODF〉を開始する。友を共に守り抜こう!」
『『『了解!』』』
そして、このシェルターを守るための命懸けの激戦が幕を開けた――。
◇◇◇
テンポのいいドラムから始まり、それに続くように心を高揚させるようなベースとギターの音が追いかける。そして、男性の声がその音に後押しをされるようにシェルター内から暫し離れたここまで届くほどの声量を伴って発せられた。
その音楽は、今から戦う私たちを鼓舞するかのように激しいものであり、心が高ぶるような音色だった。そして、その大きな音量を聞きつけた化け物たちはその音の発信源に向かおうとものすごい勢いでこのシェルターに向かってくる。
私たち警備兵は、その進行を妨げるべく銃を発砲していく。だが、敵の数は常軌を逸するほどの物であり、到底人の手が足りないと思えたが、『守護者』なんて言う大層なチームの名前だけあって、素晴らしい実力をその人たちは持っていた。それに加えて、戦闘だけは誰の追随も許さぬほどに抜きん出た実力を持つ澪までいるのだ。押されるかと思っていた戦況は、むしろ優勢であった。
そして、敵の数も順調に減り始め、私は気になっていたことを剛に質問することにした。
「あの、剛さん。【BFF】とは何なのでしょうか?」
すると、銃を発砲していた剛は戦況が安定し始めたのを確認し、撃つのをやめた。そして、私の質問に興奮気味に反応した。
「あぁ、そうだなぁ。【BFF】っていうのは、このシェルターで生まれたバンドチームのことさ」
「そういえば、今もシェルター内から音楽が聞こえますね」
シェルター内から聞こえていたのは、熱唱という言葉が合うほどの熱量を伴った音楽であり、それはシェルター内から聞こえる多くの歓声と共に大きな盛り上がりを生んでいた。
「今、歌ってるのは男性ギターボーカルの叶向だな」
「男性ギターボーカル?」
「そうそう。実は、このバンドにはボーカルが二人いるんだ。男性ギターボーカルの叶向に女性ギターボーカルの陽葵。そして、ベースの俊行にバンドの晶。ボーカルが二人いるバンドって珍しいよな」
確かに…大体、バンドと聞いたらボーカルが一人のイメージが強いけど…。バンドに詳しいわけでもないから何とも言えない…。だが、剛が言うのならそうなのだろうか。
「それで今歌ってる叶向の歌は、気持ちが昂るような前向きになれるような曲が多くてな。叶向の歌を聴くといつも辛い現実に向き合って頑張ろうって思えるんだよ」
そっか…。このライブはこの人たちにとってのこの砂の世界になってしまった受け入れがたい現実を生きていくための希望なんだ――。
「それに対して陽葵の方は、声に透明感があってな。聴いてるだけですごい癒されるんだよ。それに加えて、声に張りがあるからさ。場の盛り上がりは、盛り下がることなく、むしろどんどん上がっていくんだ。陽葵の歌はいつも俺たちの疲れきった心を癒して、もう一度立ち上がらせてくれるんだよ」
「好きなんですね」
私のその言葉に剛は、一瞬目を丸くし、そしてニカッと歯を見せて笑った。
「あぁ!大好きだ」
「話は終わったか?それなら、早く参加してくれよな」
隣で聞いていた透が銃を撃ちながら、横目に言ってきた。
そして、警備兵に加え私たちの協力もあり、敵の数はみるみる減っていき、それと同時に叶向の歌が終盤に差し掛かった。そして、歌が終わると同時に敵も倒し切り、銃を撃ち止めるとしーんと辺りは静まり返った。
その後すぐに歓声と拍手の音がシェルター内から沸き上がる。それと同時に私たちは驚愕することとなった――。
「――がはっ」
私の目の前には、先ほどまで話していた剛が何かに胸を突き刺され、足元を浮かせながら空中で静止する姿が映っていた。
『み、みんな!し、進化ミュータントが現れたよ!!』
時が止まったかのように放心していた私たちの耳元に焦りを含んだ声で満は、今起こった状況の原因に当たる元凶の存在を伝えた。
そして、剛に突き刺さっていた何かが勢いよく抜かれ、剛は地面にそのまま落下した。それを受け止めるように透は、剛の落下地点にすぐに駆け寄り、落下する剛をしっかりと受け止めた。
私は、剛に刺さっていた何かが引き抜かれ、元の場所に戻る様子を視認した。その何かは、引き抜かれた後、闇の中に姿を消し、それと同時に闇の中からうっすらと何か巨大な影が姿を現した。
足音を立てず静かに現れた影は、月明かりを鈍く反射する硬そうな甲殻に身を包み、一度捕まれば逃れることはできないだろう巨大な二本のはさみを持ち、血の滴る鋭い針を備えた尾を妖しく揺れ動かす。その巨大な姿は――蠍だった。
私たちの命懸けの激戦は、ここから始まるのだ――。