ひと時の休暇
次の大型跡地に向けて、二台編成で車を走らせる。私が乗車している方には、いつものメンバーである透、澪、満が同乗していた。そして、もう片方の車には俊行運転の下、叶向、陽葵、晶が同乗している。
私たちは、それぞれで安らぎのひと時を過ごしていた。
「それにしても澪、いつにも増して大人しいですね」
私は、隣に座る澪に対してふと疑問に思ったことを告げる。そんな私の言葉に少し戸惑いながら、私からすぅーと澪は目を逸らす。
「そ、そんなことないよ?いつも通りだよ~」
「そうですか?まさか……何か隠し事してますね?」
いつもの澪は私から見て、明らかにおかしい。いつもの澪ならば、快活に笑い、何か意味のわからない言葉を叫んでいるはず……。こんなにお淑やかな澪は、出会ってから初めてのことだった。何か隠し事をしているのかもしれない…!
「か、隠し事なんてしてないって!ほんとに!いつもみたいに女の子らしいでしょ?」
「……………はい」
「何、その間は!一体何の間だったの!!」
「いえ、別に深い意味は無いですよぉ~。はっ!まさか……悩み事ですか?悩み事ならいつでも打ち明けてください!私たち家族ですよね!!」
「大丈夫だから!ほんとに気にしないで!」
「そうだぞ~俺たち、家族だもんなぁ~俺たちに秘密があるなんて水臭いじゃないかぁ~教えてくれよ~家族なんだし」
透は、運転をしつつ横目に私たちを見ながら会話に入ってくる。
「そ、そうだよ…!僕たちは家族なんだから、さ、支え合わないとね!家族なんだから」
満も作業の合間を見て、会話に入り込む。
これはそう、澪のシェルターで発言した私たちは家族という言葉をニヤニヤとしながら暇があれば、その事で弄るのである。その事で弄るといつも決まって澪は恥ずかしそうな反応を見せるので、それが面白くてついみんなは澪を弄るのを辞められないでいた。
「うわぁぁぁああああああ!!聞こえなーーい!もう何も聞こえなーーーい!!」
澪は、大きな声を発し耳を手で覆い隠して聞こえないふりをした。私はそんな澪の手を掴み、優しく、そう優しく剥がし耳元で囁く。
「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。だって、私たち家族なんですから」
「うわぁぁぁぁああああ!もうみんな嫌いだぁぁあああ!」
そんな感じで私たちは、車内でわちゃわちゃと澪を弄りつつ過ごすのであった。
◇◇◇
同時刻、俊行運転の下、車に同乗する【BFF】メンバーの方では一一
「それにしても、こんなに食料とか物資まで頂いて、本当にあのシェルターの方達には、感謝しても仕切れないよな」
叶向は、後部座席から身を乗り出し、前に座る俊行と晶に向けて話し始める。
「そうだな。俺たちを見送る時のみんなはとても温かかったな」
「せやな。ワイらの歌であないに笑顔になってくれたんやもんな」
俊行と晶は、叶向の言葉にうんうんと頷き、あのシェルターの人達の温かい見送りに想いを馳せた。
「これだけ食料があれば、当分の間は困ることもないだろうし、むしろいくら食べてもなくならないかもな!ははは」
「ほうですね。もぐもぐ、いふらはべへもはくはらないでふ!」
叶向の口に出した冗談に口に何かを詰め込んでいる陽葵が肯定する。叶向はその返事に何か違和感のようなものを感じ、恐る恐る横に座っている陽葵に目線を向ける。すると、陽葵は片手に缶詰を持ち口いっぱいに食料を頬張っていた。
「おい、何食べてんだよ」
「ふへ?んっ…サバ缶です!」
叶向はその陽葵の気の抜けた返事に少しイラっとしたが、結構な量の食料があることを知っていたので何とか喉から出かかっていた怒りを飲み込むことができた。
そして、チラッと陽葵の座る座席の横に目線を移す。そこには、山積みになった空の缶詰がこれでもかというほどに置かれていた。
「おい、これはなんだ?」
「私の食べ終わった缶詰たちです!」
「見ればわかるわ……ってか、ちょっと待て!おい!これ、俺の楽しみにしてたフォアグラの缶詰じゃねぇか!!!!何しれっと食べてんだお前ぇぇぇええええ!!!!」
叶向は陽葵の胸ぐらを掴み、力の限りに陽葵の頭を上下左右にぶんぶんと激しく揺らした。
「だってぇぇぇえええ目に留まったんだもん!!!」
「だってもへちまもねぇぇぇええええ!!!今すぐ吐きやがれぇぇぇえええええ!!!」
「一度飲み込んだら、もう出てきませんよぉぉおおおぅううおうぅぅ……おぷっ」
先ほどまで頭を激しく揺すられていた陽葵は、顔を青ざめ口を押さえた。
「おいおい!待て!ここで吐くんじゃねぇぞ?絶対吐くなよ!頼むから!」
「も、もう無理…」
「とっしー!!窓を全開にしろぉぉおおお!!」
今しがた開かれた窓に陽葵は飛び移り、顔を外に出して陽葵に吞み込まれたであろう食料たちがキラキラと日光を反射させ砂の大地に栄養を与えた。
「こいつ…どうしてこれで小柄なのか理解できねぇ…」
叶向は、窓の外に栄養をぶちまける小柄で可憐な残念過ぎる少女に小さく溜息を吐くのだった。
こうして私たちの旅は、新しい愉快な仲間を加えて次の段階へと進んでいくのであった。