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truthypanion~トラシパニオン~  作者: 神無月かなめ
13/15

仲間と決断

 私は自分の無力さに打ちひしがれていた。それもそのはずで今回の戦いにおいて私は何一つ、戦いに貢献できなかったのだから…。


 そんながっかりとした様子で車の揺れに身を任せ、左右に揺れている私をよそに功労者である透は神妙な面もちで隣に座っていた。


 今回の作戦では調達班に同行ということだったので、調達班専用の移動用の車に乗車させてもらっている。私たちはその車の後ろに設営されているボックスの中に置かれた横に長い座席に腰を下ろしていた。


 そして私から見て、目の前に置かれている座席には澪と満が座っている。澪の瞳は赤く少しだけ腫れ上がっており、おそらく泣いたのだろうと推測できる。


 先の戦いで戦ったあの化け物は、最後消える直前、禍々しいオーラが完全に消え一瞬だけだが人の顔を覗かせたような気がした。その人は口元にうっすらと笑みを浮かべて慈しむように澪を見つめていたのだ。あの人は澪にとっての誰だったのだろうか…。


 その時、車が一際大きく揺れた。その揺れに身を任せていた私は隣に座る透の肩に頭を預けるような形で倒れてしまう。


「あ、ごめんなさい」


 ガタッ!


 私がとっさに透に対して謝罪を入れると、目の前に座っていた澪が勢い良く立ち上がった。私はそれに驚きすぐに体を起こして澪を見つめる。


「どうしました、澪?」


「えっ?あ…いや、えっと…。そう!ちょっと私の隣に来て一緒に話さない?」


「え?いいですけど…。でも、普通にこのままでも話せると思いますよ…?」


 私の座っている座席と澪の座っている座席の間はほとんど離れておらず、わざわざ隣に移動しなくても苦なく話すことができた。それにも関わらず、澪は自分の隣に座ることを勧めてきた。


「い、いいから!いいから!」


「わかりました…」


 そして私は満とは反対側の澪の隣に腰掛ける。その際に透から謝罪の返事を聞いていなかったなと思い、透に視線を向ける。だが、透は何事もなかったかのように先ほどと同じくただ神妙な面もちのまま何かを考えこんでいた。


「それで話って何ですか?」


「え…えぇ~と、そう!お腹すいてきたね!」


「は、はい…。そうですね?」


 何ともぎこちない澪の話に私は首を傾げながらもしばらくの間、澪との会話は続いた。


 ◇◇◇


 陽が落ち始める頃、私たちは早い帰還を済ませる。想定では、辺りが暗くなり始める少し前ぐらいに帰還する予定であったが、突如発生した人型ミュータントとの戦闘によりこれ以上の戦闘はできないと判断したようで早めに帰還することにしたのだ。


 私たちは、調達班のメンバーと手を振り合い別れた後、特にすることもなかったので一度自分たちのテントに戻ることにした。そしてテントに着いた私は三人の顔を見つめ、今後についてどうするのかを話しておくべきだと思い、口を開く。


 実際、このままここで立ち往生していても旅の目的を果たすことはできないだろう。だが、ここに残り続けるということは、それだけ仲間の協力も得られるということなので私たちだけで旅をし続けるよりはずっと安全なのだ。危険を冒してまで目的のため、旅をし続けるのか…それとも、安全を取りここで滞在し続けるのか…。決断する必要がある。


「それでこれからどうしますか?」


 私が今後についての話を切り出すと、今まで下を向いて何かを考えこむようにしてとぼとぼと歩いていた透が顔を上げて小さく挙手をした。


「俺から一ついいか?澪に聞いておくことがあるんだ」


 そう言って澪に歩み寄り、透が口を開きかけた瞬間――


「あっ、いた!調達班の方たちが戻ってきていたので、皆さんも戻ってきていると思ってました!」


 そう言って私たちのところに駆け寄る四人組。【BFF】の面子である。


 そういえば、昨日に【BFF】のメンバーとスタジオで話をしたんだっけ…。いろいろなことが起こりすぎて、少しだけ…。いや、若干?忘れていたなんて口が裂けても言えない…。まあ、こうして話しかけてきたということは、メンバーで話し合って剛さんのことや今後のことについて整理をつけたのだろうか。


「あ、あぁ…。お前たちか。それで、何の用だ?」


 透は、話を中断されたことが不服だったのか、少しだけ虫の居所が悪そうに用件を聞く。


「メンバーで話し合ってこれからについてどうするかを決めたので透さんとそのお仲間さんに報告しようと思いまして!」


「なんで俺たちに言う必要があるんだよ…。自分たちのことは自分たちで勝手に決めればいいだろ」


 不機嫌そうに投げやりで応える透の反応に私も内心肯定する。【BFF】とそこまで深い関わりがあるわけでもないので、今後について話されたところで私たちにはどうすることもできないのだから。


 そんな透の不機嫌そうな反応に居心地悪そうに指をもじもじしながらもめげずに、叶向は言葉を続ける。


「それはそうなんですけど…。これは、透さんたちにも関係してくることですので!」


「いや、関係って…全然関わりないだろ…まあ、話だけは聞くから話してみてくれ」


「はい!僕たちはメンバー内で話し合って、剛さんの恩に報いるためにも…この世界のどこに住んでいても…この世界で亡くなってしまった方たちにも…すべての人に僕たちの音楽を届けたい。そのためにも僕たちは――」


叶向は、自分の高鳴る気持ちを落ち着かせるようにふぅ…と深く息を吐いた。そして――


「旅がしたいんです!」


 一息ふぅ…と吐かれた後に続いた言葉は、私たちの想いと同じであった。だが、叶向たちが話し合って決めた目的は彼らにとってここの安全な生活を捨ててまで成し遂げたいことなのだろうか。その先に幸せがあるのだろうか。


 私がふと思った疑問について透も同じことを思っていたようで一つ溜息を吐き、その疑問を問いただすように口を開く。


「シェルター外はお前たちが思っている以上に危険な場所だ。外ではお前たちのことを誰も守ってくれないんだぞ?自分の身は自分で守らなくちゃいけない。厳しいことを言うようだが、それをお前たちができるとは思えない」


「分かっています。でも!僕は…僕たちはこの世界で今も苦しんでいる人たちに少しでも希望を持ってもらえるような音楽活動がしたいんです!!」


 厳しい現実を突きつける透に対してそれでも決心を曲げず堂々と自分の気持ちを表明する叶向の姿はどこか輝いていて恐れを知らない夢を語る少年のように見えた。


 そんな叶向の姿をただ静かに見つめ耳を傾ける透は、その表情を冷たいものへと変える。


「それはお前の意思だろ。仲間と話し合ったって言ってたけど、その殊勝な意思を他の奴らも持ち合わせてるとは思えないんだが」


 そう言って、他の三人に視線を送る透に私よりも少し身長の低い大人しそうな少女が一歩前に踏み出し、真剣な表情で透の瞳を見つめる。


「私は、仲間たちとバンド活動をし続けられるなら――」


 ゆっくりと瞳を閉じ、そして開かれた瞳に遊び心などは一切感じられず、そこに存在するのは覚悟のみであった。


「命だって懸けられます!」


 そして、その小さな可愛らしい口から紡がれた言葉には空気を震わせるような重みが込められていた。


 ――それは、その言葉は、陽葵自身の想いそのものなのだろう。


 そしてその陽葵の言葉に続くようにもう二人の俊行と晶も自分の想いを口にする。


「わいらにはバンドしかないからな~。わいらのバンドで希望みたいなもんを他の奴らにも与えられるならそれに越したことはないしぃ。わいは、こいつらについていくわ」


 そう自分の思いの丈を口にした晶は、少しだけ照れ臭そうに頬を掻いていた。


「俺はそういうのはあんまり分からん。だけど、まだこいつらに教えてないことがたくさんあるんだ。それをすべて教えきるまでは、こいつらとバンドを解散するつもりはない。だから、俺もついていく」


 表情の変わらない俊行のその瞳には、言わずと知れた親心のようなものを感じた。もしくは、自分の後悔を払拭するかのような…。未練のようなものも薄らと感じ取れた。


「僕たちは皆、想いを胸に旅をする決断をしました。だからこそ、僕たちは透さんたちにお願いしたい――」


 そしてここからが叶向の話しかけてきた用件の核心部分であり、本題であろう。


 叶向は、ゆっくりと息を吐き胸中に溜めた言葉を勢いよく口にする。


「僕たちを旅に同行させてください!」

「拒否する!」


 仲間の私ですら目を見張るほどの否定の即答であった。その即答ぶりに思わず、叶向も「えぇ…」と困惑気味であった。


 あれほど熱烈に自分の思いの丈を打ち明け、仲間の意思も確認し、そして同行の願い。誰がどう見てもその想いに賛同し、「共に行こう」とか言う流れかと思いきや…そういうわけではないらしい。


「な、なんででしょうか…。理由を聞かせてください…」


 恐る恐るといった様子で透にその拒否した真意を聞き出そうとする。


「いや、だってさぁ…。お前ら銃持ったことないだろ?俺たちもあんまり食料があるわけでもないしさ。次の探索地点までに今ある食糧が持つかもわかんねぇし。それに――」


 透は、瞳を閉じその言葉に続く言葉を焦らすように押し黙る。それにゴクリと喉を鳴らし、叶向たちはその続きの言葉に耳を傾ける。


「車の乗車定員オーバーだわ」


 た、確かにぃ…。ここで四人が加わったら合計で八人となり、この人数で車の中に入るのはさすがに厳しそうである。というか無理である。それに彼たちには、楽器もあるのだ。それら全てを車に乗せるのは現実的ではない。


「う、ううぅ…」


 これには先ほどまで猛烈に頼み込んでいた叶向も流石に何も言い返せないようだ。


 その時、俺たちの会話を盗み聞きしていた警備兵の数人が物陰からぞろぞろと現れる。


「あの、もしよかったら僕たちの車を一台差し上げますよ!」


「……いや、何でお前らいるんだよ」


「いや、あはは…。【BFF】の方たちと透さんたちが会話しているのを見かけて、つい気になっちゃって…。それよりも!車のことは気にしないでください!僕たちのを一台差し上げます」


 警備兵はずいっと叶向たちにそう言って、詰め寄る。それに若干体を仰け反らせて距離を取る叶向は、遠慮がちに言葉を口にする。


「そ、そんなの悪いですよ…。車を貰うだなんて…」


 すると、詰め寄っていた警備兵はにっこりと微笑んだ。


「いいんですよ。僕たちは今まで【BFF】の皆さんにたくさんの元気を頂きましたので。これは、少しばかりの僕たちのお礼みたいなものです。受け取ってください」


「僕たちの音楽で……元気を…」


 叶向はその瞳に薄らと涙を浮かべた。


「ありがとうございます。もっとたくさんの人たちに元気になってもらえるように頑張ります…!」


「はい!このシェルターでいつまでも応援していますね!」


 そして腕でごしごしと瞼を擦り涙をぬぐった叶向はそれをただ黙って聞いていた透に詰め寄る。


「旅に同行させてください!」


「まだ全然問題は解決してないが…はぁ…。好きにしろ」


「やったーー!ありがとうございます!!」


 目の前でこんな温かいものを見せられては、断るつもりでも断れないというものだ。食料に関しては節約すればどうにかなるだろうし、銃も訓練すれば何とかなるだろうとは思う。


 そうして目の前で喜び合う新しい四人の仲間を眺めながら唐突に始まった話し合いは終わったのだった。だが気になることがもう一つだけ残っていた――そのもう一つの透の話を聞くのは、それからしばらくが経ち、新しい仲間たちも落ち着きを取り戻した頃だった。


 ◇◇◇


「それでさっきの話に戻るんだけど、澪に話があるんだ」


 この場には、話し始めた透に加え澪、私、満が同席した。新しく仲間に加わった四人は話が終わった後にいろいろと準備することがあると言い出してスタジオの方に向かっていった。そして、私たちは先ほどの透の話に戻ったというわけだ。


「な、何?話って…」


 澪は少し落ち着きのない様子でもじもじと指を擦りながら、ちらちらと透の方に目を向けた。


「あの戦闘での相手…。あのミュータントの正体が誰か…澪はすでに分かってるんじゃないか?」


 ミュータントの正体…?それってどういう…。


 私はその言葉に全く思い当たる節がなかったが、その言葉を聞いた澪の反応は明らかであった。顔を俯かせ、先ほどのような落ち着きのない様子はどこかへと消え、そこにあるのは沈黙だった。


「やっぱりな…」


 透は静かに何かを思案するように瞳を閉じる。そして、決心がついたように瞳を開け、口を開いた。


「改めて聞く。澪、お前の旅の目的はなんだ?」


「…………あ、『兄を見つけること』」


 澪は透の言葉を恐れるかのように言葉を詰まらせながらも旅の目的を告げる。


「あぁ、そうだな。だけど、それはもうすでに()()()()()わけだ」


 待って…。話が見えてこない…。どういうこと?澪の目的が『兄を見つけること』なのは知ってる。でも、それがどうして成し遂げたことになるのだろうか…。


 そこでふと、あの人型ミュータントとの戦闘の最期を思い出す。


 ――最期、消える瞬間に見せた人の素顔。そして優しく澪を見つめるその瞳。薄く微笑み幸せそうに目を細めるその表情。


 そうか…。あの人は『澪の兄』だったんだ――澪のことを守り続け、自分の身が傷ついたとしても決して見捨てることなく、ただその腕で優しく包み込んだ澪の優しい腹違いの兄。その人だったのだ。


 私はその瞳に薄らと涙を浮かべる。


 やっと、会えたんだね――


「これから澪はどうしたい?」


 そんな感慨に耽る私を置いて透は澪に質問を投げかける。


「私…。私は、みんなと旅をし続けたい――」


 今まで俯いていた澪は覚悟の決まった瞳で透を見上げた。


「だけど、旅は危険そのものだ。いくら強いからと言って目的もなしにするもんじゃない」


 その透の言葉に澪は微かに口角を吊り上げて微笑する。


「あるよ。旅の目的。私の旅の目的は『母親と出会うこと』」


「母親って…!」


 私は思わず言葉を挟んでしまう。それもそのはずで澪の母親は澪に対して酷いことをするような人間なのだ。私は澪に傷ついてほしくはない。だからこそ、澪のその新しい目的に動揺してしまった。


「大丈夫。それに私はあんなことを経験しても尚、母親のことを憎めないみたいだから」


「それは澪、お前自身のためになるのか?」


「かもね。でも、それ以外にももう一つ旅の目的があるの」


「もう一つ…?」


 私がそのことに首を傾げると澪はプフッと小さく吹き出して微笑む。


「そう、もう一つ。その目的は『私の家族を守ること』」


 その言葉に私の胸がドクンと脈打つのを感じた気がした。こんなことは初めてでその奇妙な感覚に私は私自身の胸に手を当てる。


「私の家族は、もう兄と母親だけじゃない。透に満、そして結衣。私はみんなのことをもう一つの家族のように思ってる。だから、みんなの傍でみんなのことをサポートしたい。力になりたい。笑い合いたい。それが私が旅をする目的…。これじゃあ、旅をするには足りないかな?」


 澪は背中側で手を重ね、前屈みとなっていつもと同じように快活に私たちに向かって笑ってみせた。


 だがその表情はいつもと同じはずであるのに、今回の澪の笑顔はどこか輝いていて、仄かな光の微灯が澪を照らすように辺りに舞っているようなそんな錯覚を覚えるほどに美しい光景であった。


「十分だよ。それじゃあ、俺たちも旅を再開する準備をしよう!明日からまた旅生活だ――」


 そうして、私たちのこのシェルター内での生活は終わりを告げた。明日からまた私たちの旅が始まる。新しい仲間を加えた旅がどうなるのか…。


 想像を膨らませる未来にワクワクする気持ちと楽しみという気持ちを胸に秘めながら、着々と旅の準備を進めるのであった。







やっと仕事の方が一段落しまして、ようやくまた執筆を再開できます…!ふぅ~今日という日を生き残ったことに万歳!そして、今日という日まで生き残ってることに万歳!はい!皆さんご一緒に~ナーイストライクショット!


ということで、また次回のお話で!できるだけ早く更新できるように頑張ります!(敬礼のポーズ(ビシッ))

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