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truthypanion~トラシパニオン~  作者: 神無月かなめ
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決戦 前半

結衣視点に戻ります!

 唐突に発生した振動が床を伝い、建物全体を大きく揺らした。


「なっ何!?」


 その異様な状況に私と澪、そして調達班の面々の表情に動揺の色が現れる。大きな振動は徐々に弱くなり、そしてしばらく揺れが続いた後、その静けさに恐怖を抱くほどにピタリと振動が止み一抹の静寂が辺りを包み込んだ。


 その後何事も起こらず、調達班のメンバーの各々が安堵にホッと息を吐いた瞬間、下の階からこの階の床に大きな穴を開ける程の衝撃が突き抜ける。そして大きく開かれた穴から異様な雰囲気を放つ禍々しい異形の人の手よりも二回りほど大きな手がヌッと下から現れた。


 その不気味な手に私を含め調達班全員に戦慄が走る。


 その手の持ち主は、徐々にその体を現わしていく。私たちはただ呆然とその光景を眺めた。いや、ただ眺めることしか許されない程の威圧がそれからは発せられていたのだ。


 そして、今までゆっくりと上げられていたその体が頭が見えないぎりぎりのところに差し掛かった瞬間、ヌッと唐突に子供が何かを興味本位で顔だけを覗かせて見るかのように顔だけを出した化け物と目が合い、背筋に悪寒が走るのを感じた。手が震え、それと同じく指は小刻みに震えていた。息をすることすら咎められてしまうようなこの状況で私たちはただ相手の出方を窺うことしかできなかった。


『ひ、人型の進化ミュータントだって…!?そ、そんなの聞いたことない…!』


 満の声が無線機越しに届き、緊張で動かすことのできなかった体の緊張が緩み、動かすことが可能となった。それと同時に透が声を大にして叫ぶ。


「撃てぇぇぇええええ!!!」


 その号令に続き、調達班のメンバーは次々とその敵に対して銃を発砲する。しかし、その敵は平然とした様子で意に返すことなく少しだけ首を傾げ、先ほどと同じようにゆっくりとその開いた穴から這い上がっていく。


 そして完全にその体を現わしたその進化ミュータントは人の形をしながらもその体はどこか歪であり、紫色の痣が白い体のところどころに浮かび上がっていた。


「オユおイレミハザ」


 その化け物は、崩れかけの跡地内に響き渡るような甲高い声で何か奇妙な言葉を囁いた。だが、私たちはその言葉に反応することなく、ただその巨躯にひたすら弾を撃ち続けた。そんな私たちの態度に憤りを感じたのかその目元を鋭いものに変え、力強くその化け物は地面を蹴った。その踏み切った力だけでコンクリートの床には無数の罅が入り、踏み込まれた場所にはその化け物の足跡がくっきりと残っていた。


 そしてその敵は一直線に透に向かって肉薄し、透と敵が重なる瞬間、腹を思い切り蹴り上げられその表情を驚愕と苦痛に歪ませる透の姿が目に映った。そのまま透は、上の階にまで吹っ飛びされそうなほどの勢いでコンクリートの天井に体をめり込ませた。ほんの数秒そのままの状態だったが、重力に従い直下で敵の前に落下する。そして地面に体を打ち付け、それと同時に血反吐を吐いた。


「ザ□オユチザオオャザ□キユ!ザザキオンミユ□ユザトオミ…」


 そう言った化け物は、床に倒れこむ透の顔をその歪で不気味な足で踏みつけた。私は、あまりの不気味な雰囲気とその光景、そしてその奇妙でところどころ聞き取れない声に怖気付いた。


 そんな固まる私の目の前に颯爽と現れ、化け物に向かって一直線に走り向かう姿が一人いた。それは、澪だった。澪は、その敵に向かって体ごとぶつかりに行き、その体をもって透の顔を踏みつけていた敵を押しのけることに成功した。


 敵は不意な出来事に怯みはしたもののすぐに体勢を立て直し、目線を透から外し澪へと向ける。おそらく目標を透から澪へと変更したのだろう。


 だがそんなことには一切怯むことなく、堂々と不気味な敵と相対する澪の姿はどこか覚悟のきまった表情をしていた。そんな姿に私は『澪なら何とかしてくれるかもしれない』という漠然とした希望を抱いた。現に今までも澪はその身体からは想像もつかないほどの身体能力を発揮し、次々と難敵に立ち向かいそれを乗り越えてきたのだ。


「オザ□オみオイユオザザザザおオザノ…?」


「来るならさっさと来なさいよ」


 その化け物がその言葉を理解したのかどうかは分からないが、澪の言葉を聞き終えた後その敵は澪に向かって駆け出した。そして、澪とその敵の距離が目と鼻の先にまで縮まる。澪は何をするでもなくただ相手が向かってくるのをじっと待っていた。


 そして、敵は間合いに入った澪に向かって三回にわたる拳打を繰り出す。その攻撃は私の目では認識することすら出来ないほどの速さを有していたが、澪はその攻撃を左右に体を揺らしギリギリのところで避けていた。


 そして、最後の攻撃を左に体を傾けて避けた後、そのまま左に倒れながら敵に銃口を向け、敵の横腹目掛けて超近距離から射撃した。


 しかし、敵はすぐに澪に向けて足を蹴り上げる。それに気付いた澪は、いち早く撃つのを止め、その場から大きく後ろに退き回避する。


 今の攻防だけで私は確信した。澪ならきっとこの敵を倒してくれる――と。


 だが、一進一退の攻防に一抹の不安を感じたのは否めなかった。この敵を澪だけで倒すのはそう簡単な話では無いだろう。


 その時、調達班のリーダーを務めていた男性がメンバー全員に聞こえる声量で指示を出した。


「俺達は嬢ちゃんをサポートする!嬢ちゃんに当てないように距離が開いたら一斉に攻撃するぞ!」


 そう感じていたのは私だけでは無かったようだ。


 調達班の面々は、皆一様に頷いた。そして、澪とその敵の攻防はますます激しさを増していった。先ほどと同様に敵が澪に接近し攻撃する。それを澪はギリギリのところで回避し反撃にまで持っていく。しかし、その攻撃も空しくそれだけでは決定打になりえなかった。そして、澪は敵の攻撃を後ろに飛び退き回避した瞬間、リーダーが叫く。


「今だぁぁああ!!」


 その言葉と共に調達班のメンバー全員が一斉にその人型ミュータントに向けて銃を発砲する。ミュータントはそのあまりの猛攻に思わずその動きを止め両腕をクロスしその攻撃に耐えようとした。そして私は、その無防備となった横腹を狙って発砲する。


 敵の表情はあまり読み取れないが、それでも苦しそうにしているのはなんとなく理解できた。この私たちの攻撃も全く無意味というわけではなさそうだ。


 そして、横腹を集中的に攻撃する私に苛立ちを覚えたのか敵は私に目線を向ける。おそらく、目標を澪から私に変えたのだろう。だがそれは、敵にとって()()()()()()である。一番この中で目線を外してはいけない存在から目線を外してしまった敵は、地獄を見ることだろう――。澪によって。


 敵が私を睨みつけた瞬間、その敵の背後には既に澪が至近距離から敵に銃を向けていた。


「おわりッ!」


 敵は、目のような何かを大きく見開き、そのあまり読み取れない表情を驚愕のものに変える。


 そして澪の放った敵からゼロ距離の弾は、敵の身体を穿ちその体の表面に大きな罅を作るとともに撃たれるたびに徐々にその傷を大きなものへと変えていく。


「ア二ザザザ二」


 その言葉の直後、敵の体が割れ外殻がぱりぱりと崩れ落ちていく。そして、露になった姿に私たちは恐怖した。


 失望や悲観、自棄のような薄暗く渦巻く闇の感情が人の形となったかのような見た目であり、その深淵にも似た底の知れない純粋な黒に身を包んだその姿は、紛れもなく絶望そのものであった。


「ザオイオユ」


 その言葉を呟き、その口元をにやりと歪ませた化け物は次の瞬間、その姿を消した。そして私の目の前には澪が映っていたが次の瞬間、澪の背後にその絶望が現れた。


 澪はまだそのことに気付いていない。その化け物の口元には既に笑みは残されていない。そこにあるのは、純粋な怒りそして――殺意であった。


 私がそのことを知らせようと口を開きかけて、その行動が遅すぎることにその現実を見せつけられ実感する。敵が澪の背後に現れてすぐ、敵は澪の横腹にめがけて体が変形してしまいそうなほどの威力をもって蹴り上げる。


 そして、吹き飛ばされた澪はコンクリートの壁を突き破りその向こうにまで突き抜けた。


 私は、ただ感じることしかできなかった。いや、私だけではないだろう。そこにいたメンバー全員が等しく感じ取ってしまっただろう。この化け物が行った純粋な暴力が私たちの力とは比べ物にならない程圧倒的なものであるということを。私たちが敵う相手ではないということを。


 澪は、ぐったりとした姿勢で自身を受け止めた先の壁に背中を預ける。そして澪の口からは血が垂れており、弱々しく化け物を見つめるその瞳からは一筋の涙が溢れて流れ落ちていた。


 化け物は、そんなことお構いなしだと言うように悠然とそのぐったりと座り込む澪に歩み寄っていった。そこに感じられるのは、ただ殺意のみである。その敵は澪を殺すつもりなのだ。その絶望が渦巻く敵の瞳からは煮えたぎるような何かに対する怒りが感じ取れた気がする。


 そんな思考に耽る間に敵は澪の目の前にまで近付き、その巨大で歪な禍々しい手を振り上げる。そして、無慈悲にもその手を澪に向かって振り下げた。


「やめてよ、お兄ちゃん… 」


そう小さく呟いた澪の言葉にほんの一瞬ピタリと澪に振り下げようとしていた手を止めた。


「うおおおぉぉぉぉぉおお!!」


 その時、聞き覚えのある声と共にその敵の頬に向けて、その男は力強い拳を打ち付けた。


「俺の仲間に何やってんだぁぁああああ!!」


 その拳打がとてつもない威力だったことを想像させるほどにその拳を自身の血で真っ赤に染め、だらんと力なく揺らしながら、その威力に数メートルほど後退させられ何が起こったのか理解できずにいる化け物に向かって、血の滴る口を限界まで大きく開き高らかに吠えた。

リアルの方の仕事が忙しくなかなか更新できませんでした。申し訳ないです(ぺこり)それでも地道に更新して参りますのでこれからもどうぞよろしくお願いします!(*'▽')

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