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秋草を揺らす風が吹く先に  作者: 溯蓮
1章
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3話

1章

 暫くして炎が収まると、そこには元から何もなかったかのように空き地の地面だけが残った。呆然とする青年を横目に、灯我は顔を覆ってうずくまった。


「…死にたい。」


「え!?何で!?」


 絞り出された言葉に青年は慌てて駆け寄る。訳も分からずに同じようにしゃがみこめば真っ赤になった灯我が顔を上げる。


「初対面の人を散々連れまわした挙句あんなこっ恥ずかしい口上聞かれるなんて…しかも同じ高校!!」


「えっ!?」


「まじやだ…だから修行も何もしたくないんだって。」


 ぶつぶつと灯我は焦点のあってない目で文句を垂れる。そんな様子に青年は気まずそうに苦笑を漏らした。

 それから数分後、長々と文句を言った灯我はやっと意識を現実へと戻した。それまで青年は律儀に持っていたわけで、安心したように改めて助けてもらったことへの礼を述べた。


「改めて助けてくれてありがとう。」


「あー…うん。無事ならよかった。にしても噂系のアヤカシ者がナワバリを出てまで追ってくるって、君何してたの?」


「噂系…?アヤカシ者?」


 そうアヤカシ者。青年を追っていたのは所謂アヤカシ者と呼ぶもの。人の感情や噂、自然や動物が何らかの力で進化したものなど人間の人知を超えるものをそう呼ぶ。その中でも人体モデルなどの学校の怪談は人の噂が力を持った噂系と呼ばれる。


「噂系のアヤカシ者は基本、自分の力が一番発揮できる、ナワバリ。あの人体モデルで言うところの理科室、広くても学校から出てこない。外に出ると力が弱まるからね。だからあいつらが出てくるのはそれ相応の理由がある時だけなんだ。心当たりはない?」


 青年はしばし考えるように斜め上を見て、そして気づいたように


「あー、確か俺家系的にそういうの引き寄せやすいんだって言われたわ。なんか、先祖がどうたらこうたらって…」


「結構大事なところなのに、何でそんなあやふやなの。」


「よくわかんないから全部聞き流しちゃった。」


 あっけらかんと言ってのける青年に灯我が頭を抱える。自分の身の危険に関してなのに、聞き流しちゃったという能天気な返答に頭が痛くなる。しかも、家系的にということは、こういったことが一度や二度ではなかったということだ。それはさすがに、寺息子として聞き捨てならない。


「えっと、池身高校の生徒だよね。俺葉風灯我。君は?」


「あー俺は萩白夜安。えっとー……一応同じクラスなうえ、君の後ろの席だったんだけど…」


「え、本当……?」


 コクリ…と神妙にうなずかれ、灯我は必死に自分の記憶を探る。然し探しても探しても、萩白夜安と名乗った青年の姿は見つからなかった。


「ごめん…ぜんっぜん覚えてない。」


「いや良いよ平気。だって葉風って転校初日以来きてないじゃん。」


「あーうん……」


 気にしてたことを笑顔で言い切られ、さすがの灯我も歯切れ悪く返す。すると、その様子を見た夜安が慌てたように弁明した。


「あぁ違うよ!?そういうわけじゃなくて。うちの学校アヤカシ者が多いでしょ?普通に教室とかにいるし、いないところ探す方が大変だし。そこで勉強なんかに集中できないもん。仕方ないよ。」


「逆に何で君は見えるのにあそこでまともに勉強できるのさ。」


「え、できてないよ。目の前で遊んでる妖怪たち見たら笑っちゃって集中できないし、あいつらテストとか関係ないし。おかげで赤点ばっかで去年進学できたのも先生に土下座してやっとだよ…」


「それは本当に大丈夫なの!?」


 夜安はケラケラと笑いながら、大変だったなーなんて遠くを見ていて、灯我は心配になる。能天気な人間は何人かあってきたけれど、ここまでの人間始めてだった。


「てか、葉風はよく知ってるね。そのアヤカシ者に詳しいの?」


「あーそれこそ家系だよ。俺の家寺なんだ。アヤカシ者関連の事件なんて俺らの領分だからさ、昔からアヤカシ者退治の修行してるんだ。」


「だからさっき炎だして燃やしたの?」


 すこし眉間にしわを寄せて夜安は灯我に問いかける。その表情はどこか暗くて、悲しげに見える。それに気づかず灯我はすぐに否と答える。


「燃やしたように見えただけで、あれはただあいつのナワバリにかえしただけだよ。」


「ナワバリ?あぁ、理科室だっけ。」


「そう。あれは、学校の理科室に人体モデルを強制送還してしばらく出てこれないように仮封印したんだけ。明日学校に行って正しく退治しないと。」


 灯我は行き場のない手に行き場を与えるように懐からまたお札を取り出す。先ほど使った分を数えては何枚またつくらなきゃいけないかを考えて、灯我は顔をしかめる。


「嫌だなー……学校行かなきゃだし、また札づくりしたらじいちゃんがうるさくなりそう。」


「おじいちゃん?」


「そ、じいちゃん。この町でも有名な頑固者だよ。修行修行ってうるさいんだ。やりたくないのに。」


「なんで?」


 夜安がそう聞くと、灯我は嫌そうに顔をしかめる。そしてすぐ後に遠くを見る。その雰囲気は先ほどと同じ雰囲気で、夜安はやらかしたとすぐに察知した。


「だってあれ聞いたでしょ?まるで厨二病丸出しの口上。あれ先代からずっと引き継がれてるんだけど嫌なんだよね。」


「あーまぁ確かに…。でもかっこよくない?ヒーローみたいだったよ。すぐに倒しちゃったし。俺にはあんな能力ないからなぁ。」


「まぁ、こればかりは才能とかによってくるからね。」


 日が暮れだした、人体モデルのいなくなった空き地で、夜安と灯我が話していると、ふと夜安のスマホが鳴り出した。


「あ、ごめんね。」


「大丈夫だよ。」


「うわ、鏡だ。……鏡、俺だけど……ごめんごめん!!いま高校出てきてちょっと歩いたところの空き地。……え?戻って来いって?めんどく……わかった!戻る!戻るから!!」


 通話相手に怒られているのか、夜安は相手に見えないのにスマホに向かって手を合わせている。幾度か応酬を繰り返してから通話を切って夜安は一息つく。


「今から学校に戻るの?危ないと思うけど…」


「いや、まぁ戻るって言っても校門で待っててくれてるみたい。ごめん、俺もういくね。」


「うん。」


「明日は学校に来るんだよね?また明日ね!!」


「え、うん…」


 灯我に手を振って夜安が走り去っていく。その背中を眺めて、灯我は静かに夜安に投げかけられた言葉を頭の中で反芻していた。


「また明日…ね。」


 そうつぶやいて灯我は家路につく。祖父から逃げて来た日は帰るのがすごく億劫のはずなのに、灯我の足取りは軽い。久々に言われた言葉はほんのり心を温める。明日は学校の為に早く起きなきゃいけない。


「……あ、時間割聞いとけばよかった。」

ここまで読んで下さりありがとうございます。


誤字脱字がございましたらお知らせくださると幸いです。

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