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6 ぼくのお姉ちゃんはかわいい


「うそ、でしょ……あたしの他に……」


 おどろいたみたいに『ヒロイン』はぼくを見ている。

 名前がわからなくてとりあえず『ヒロイン』って言ってみたけど、通じた。

 ()()()()()だ。

 話が早いや。


「そうです、たぶんその()()()です。

 気づいたらぼくでした。

 お姉ちゃんは知らないので言わないでください」


 お姉ちゃんをいじめないでさえくれれば、ぼくとしては『ヒロイン』とは敵対するつもりはないからね。

 むしろ第二皇子を引き取ってくれてありがとうさ。

 お姉ちゃんをうら()るやつなんかいらないからね。


「ぼくはお姉ちゃんが幸せになるところが見たいんです。

 だから、ふらふらする美形なだけの第二皇子なんかにお姉ちゃんを任せられません。

 なので、ヒロインさんが引き受けてくださるのが一番いいです。

 ただ、お姉ちゃんいじめるのだけはやめてください」


「……は? なによそれ。

 いじめるのはイネッサじゃん、あたし(ヤニーナ)じゃないよ! それに、セルゲイ殿下はふらふらなんかしてませんー! イネッサが性格悪いから捨てられるだけですー!」


「はああああああ⁉ なに言ってるんです⁉ ウチのお姉ちゃんは世界で一番かわいくて性格だって天使ですよ! ヒロインさんのが性格悪いの丸出しじゃないですか!」


「そっちがなに言ってんのよ! あのねえ、こっちは高等学年生、あなたは初等科。

 四年も先輩の人に対してその態度なんなの? 目上の人に対する敬意とか教わらなかったわけ? そんな弟がいるくらいだもん、姉だってたかが知れてるわよ!」


 言われて、ぼくはだまった。

 ぼくの言葉と行動で、お姉ちゃんが悪く言われるのはいやだ、ぜったいにいやだ。

 おなかに力を入れて頭を下げた。


「……ごめんなさい、(せん)ぱい。

 ぼくが悪いことを言いました」


 ヒロインさんはちょっとおどろいた顔をしてから、「……わかればいいのよ」と言った。


「では、ぼくはお姉ちゃんのところに行きますので、これで失礼します」


 礼をしてぼくはお姉ちゃんの教室に向かった。

 ヒロインさんがその後どこ行ったかは知らない。


 お姉ちゃんは教室のスミでなんだか真っ赤な顔をしていた。

 ぼくがよぶとふり向いて、ほっとしたようにほほえむ。


「遅かったじゃない! 待ちくたびれちゃうところだったわ。

 帰りましょう、レオ……わたくしの『奴隷』」


 早口でお姉ちゃんは言った。

 学校内で『どれい』呼びはめずらしいので、ちょっとびっくりした。

 ああ、きっとなにかはずかしいことがあったんだな、なんだろう。

 きっと聞いても教えてくれないんだろうな。


 お姉ちゃんはぼくを『どれい』なんてよびながら、手をつないでくれる。

 なぜか一生けん命悪者ぶるけど、すごくやさしいんだ。

 美形なだけの第二皇子(こん約者)が知らなくても、ぼくはちゃんとわかってる。

 だから、ちゃんとぼくがお姉ちゃんを幸せにするんだ。


 こうやっていっしょに歩いて下校できるのは、お姉ちゃんが卒業しちゃうまでの、あと一年だけ。


 外に出たら夕やけだった。

 それは、ここでも『前』でも同じ色。

『前』はまどから差してくるその色が、どんどん暗くなって行くのを毎日ながめてた。

 ママが帰って来るかなって。

 おみやげ買ってきたよって、玄関のカギを開けて帰って来てくれるかなって。

 そしたら「おかえり」って言おうと思ってた。

 ぶたれても、おこられてもいいから、帰って来てほしかった。

 覚えてるのはそんなことで、ママ自身のことは思い出せない。


 おなかがすいてもどうしようもなくて、『おねえちゃん』といっしょにママを待った。

 ママが帰ってこないのはぼくがいるからじゃないかと思って、ときどきこっそり泣いたけど、きっと帰って来てくれるよって、『おねえちゃん』は毎日言っていた。

『おねえちゃん』が言うならきっとそうだって、ぼくはずっと思っていた。


「ねえ、『お姉ちゃん』、ぼくたち、幸せになろうねえ」


 校門までいっしょに歩きながらぼくが言うと、お姉ちゃんは笑った。


「なあに、あらたまって? そうねえ、幸せになりましょうねえ」


 ぎゅっとつないでくれた手のあたたかさは同じだった。

 だけど。


 大好きだったのに、もう『おねえちゃん』の顔も思い出せないんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 手を繋いで夕暮れの帰宅! めっちゃいい光景! ほのぼのとした中に一抹の寂寥感! なんか好きです! [一言] おんどれヒロイン! おんどれはたかだか子爵令嬢のくせに公爵令息になんちゅう口の利…
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