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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死因:嘘

作者: @愛の二乗

俺と後輩は警察官です。

「これは、、嘘死うそしだな。この掻き傷をよく見ろ。嘘死独特のものだ」

「これがあの噂に聞いていた、嘘死ですか。僕、通報を受けて、直接現場で見たのは初めてです。思っていたよりかなり生々しいんですね。全身に毒が回って、苦しんでもがきながら死んでいくんでしたっけ。そういう面では可哀想な死に方ですよね」

「まあでもしょうがないよな。五年間も嘘をつき続けてきた人間なんだから、その罰が当たったんだろう。嘘をつくことは人をそれだけ騙すってことだからな」

「......先輩は、嘘ついていないですよね?」

「ああ。お前こそついていないよな」

「当たり前じゃないですか」



俺が警察官になって四年目の冬、嘘死と呼ばれる死体が増えていた。正しくは、嘘をつき続けることで溜まっていったストレスによって体内で作られた毒が原因の毒死。だが、亡くなった身元を調べていくと全員、嘘をつき始めてから五年目の『その日』に死んでいることが分かった。


嘘死の特徴は全身を強くかきむしる傷跡、そして呼吸困難になり息ができなくなったひどい顔面だ。

あくまでも死因は、嘘というストレスから作られる毒であって人の目では見ることのできない毒物だ。



六年前、俺は老人を一人殺した。


当時金に困っていた俺はオレオレ詐欺の受け子として騙し取った金で暮らしていた。俺は犯罪に関わっているこの仕事に初めから全く抵抗がなかった。受け取るだけで、大金が手に入り、楽な仕事だと思った。この仕事をするまでは近所のコンビニでアルバイトをしていた。高校卒業してから働き始めて、アルバイト歴八年目だというのに、時給も最低賃金で真面目に毎日働いていたのが馬鹿らしくなっていた。我慢の限界が来ていた時、この仕事の存在を知った。もっと早く知っていたら…と思っていた矢先、事件は起きた。


その日もいつものように、家の前で現金を受け取る予定だった。しかし、老人は現金を渡す際に腰のあたりで妙な動きをし始めた。老人に通報されると思った俺は、咄嗟に身に着けていた護身用ナイフで老人の脇腹をブスリと刺した。


「そのまま金を渡せば良かったのに」


俺はそう老人に言い、その場から逃走した。


数時間後、ニュースで俺は指名手配犯として報道された。

"老人殺しの受け子"

そうキャッチフレーズをつけられている中、俺は報道で、刺した老人がそのまま出血多量で死んだことを知った。

その瞬間、俺は殺人犯となった。



後に分かったことだが、倒れこんだ老人の手には通報するための携帯電話などではなく、イチゴミルクの飴が握られていたそうだ。あー、インタビューを受けていた息子は怒っていた気がする。すごく泣いていたっけ。そのニュースを聞くたびにあの頃は悪いことをしたと罪悪感でいっぱいになっていたな。



で、なぜ俺は今警察官をやっているのか。


それは、俺はあの事件の後、顔も戸籍も変えて別人となった。組織が経営している美容整形の施設で俺は手術痕がなく自然に見えるような二重整形をはじめたたくさんの手術をした。新しく戸籍も作って別人として人生を乗り換えた。指名手配犯になった俺はもういないのだ。



あの事件のことは覚えていない。それより、もうすぐ警察官になって五年が経つ。



「先輩、今日も嘘死ですかね?」

「ああ。通報者の言っていた、倒れていた人の特徴は噓死のものと当てはまるからな。確か、現場はここら辺じゃなかったか」

「先輩、あの通報録音したものなんですよ」

現場へと車を走らせていた運転席の後輩は、突然態度を変え、車両を歩道側に駐車した。

一体何を言い出すのだろう。


「おい、何しているんだ」

横を向いた俺の額に黒く冷たい何かが突き付けられる。

「先輩、俺のこと覚えてないんですね」

「はぁ?? 何を言い出すんだよ? 後輩でしか俺はお前を知らない」

「ええ。そうですよ。後輩です。でも後輩になる前、あなたもニュースで観たことがあるはずです。あの頃は僕、父さんとうまくいっていなかったんですよ。結婚の話で父さん、納得してくれなくって。でも次会いに行くときは必ず認めてもらえるようにしようと思っていたんですよ。あの日、会う約束をしていたんです。でも、父さんは——」

黒く冷たい何かからは、引き金が引かれる音がした。

「父さんは、褒め言葉を言うのが恥ずかしかったみたいで、僕が小さい頃から褒める代わりに、僕が好きなイチゴミルクの飴を渡してきていたなぁ。懐かしいや。父さん。でもね、もう犯人見つけたから安心して。もう楽になってね父さん」

俺のこめかみに一滴の汗が流れた。


死を覚悟したその時、俺は全身の我慢できないかゆみに襲われた。

かゆいかゆいかゆいかゆいかゆい


かと思うと、肺が苦しい、呼吸ができない。喉からゼーゼーと音がする。

右手で喉を抑えながら、左手で体の至る所を搔きむしった。


狭い車内でじっとしていることに耐えられず、突きつけられた銃も気に留めずに俺は勢いのまま外に出た。

ふらふらとしながら、車が走る方へ向かった。突然、車道に警察官が飛び出してきたことで周囲も動揺している。そばには慌てて車から出てきた後輩が口を開けて見ている。




ああ。やっと楽になれる。


そう言い残し、俺は苦しみながら生涯を終えた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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