表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

楽しい系

短編 キッチン・異

作者: 間開

明日は金曜日。同じお題でどこまで変なものが作れるか、アイデアの引き出しをスムーズに開けるための練習です。

 この季節、キッチンは戦場と化す。


 クーラーをいくら効かせようとIH調理器(きんだいへいき)が配備されていないこのエリアは焦熱地獄となる。煮物や煮込み料理ともなれば熟練の兵士であったとしても逃げ出してしまうだろう。

 

 しかし、私は糧食班のリーダーなのだ。既製品(できあい)で済ませようものなら隊員達の士気はみるみる低下し、送り出した先で実力を発揮することが出来ない。

 

 故に、今日も戦わなければならない。そして今日は宿敵である金曜日(カレーのひ)であった。

 

 具材を切り刻みつつ装備を確認する。鍋には油を塗りこんでありいつでも戦闘できる状態にしてある。

 短期決戦のため、にんじん・たまねぎ・じゃがいもは順不同で投入する。各員の健闘を祈る。

 

 横に並べたフライパンへ豚肉を投下し、強火で炒めておく。弾丸の代わりに油が飛び交うが、円形の防護盾(なべぶた)が全てを防ぐ。いささか乱暴な手順であったとしても、最後に勝ったものだけが笑う、それがこの戦場(キッチン)だ!

 

 (うなじ)から汗が滴る、わざわざ拭くのも煩わしい。フライパン部隊(ぶたにく)鍋小隊はんなまへ合流させる。お玉を頭上高くへと掲げながらいつもの台詞を言い放つ。

「戦場ではその一瞬が」

 

「お母さん、何やってるの……」

 見られた。壁掛け時計を見ると1605(ひとろくまるごー)を過ぎていた。作戦立案時にはこの襲来を予測する余裕が無かった。

 

 仕方あるまい。

 壁にかけた新品のフライパンを手に取る。そして――間合いを詰める。

 

 過去に数回見たであろうこの太刀筋、避けるのも難しくはあるまい。しかしその判断にかけた時間こそが勝敗を分けるのだ。

 

 顔を守るように上げた両手をくぐり抜け背面へ回ると、渾身の一撃を後頭部へと叩き込む。フローリングを噛んだ両足のバネを効かせて、振り抜いた。

 

 底面とほぼ水平になるよう振られた攻撃は相手の意識を沈ませるのに十分であった。ぐらりとその上半身が揺れ、「なんで」と力なく呟く(イレギュラー)。まだまだ甘い。買い忘れたすりりんごジュースの如き甘さよ。

 

 ぐったりと力なく倒れた(わがこ)をソファーへと運び、上から静かにタオルケットをかけてやる。おやすみ、夕飯の刻まで。

 

 再び戦場へと戻り、今季三本目となる相棒をシンク下のスペースへと隠した。タイムロスはあったものの、旦那(そうしきかん)の帰還までには十分に間に合うペースだった。

 

「今日のカレーは……食えなくはないな」

 久しぶりの勝利の二文字を高々と掲げながら、糧食班の一日は終わるのであった。

どんな機能なのか試してみたくって。後悔(やっちまったかん)しかありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ