文車妖妃 05
ラヴクラフトの『本』は封印する事が出来た。二度とコズミックホラーな世界が降臨しようとする事は無い。
だが、羽黒だけは『ナイアーラトテップ』としての能力が失われずにいた。
『ニャルラトホテプ』としてのキャラクター性自体によるものなのか、設定に『旧き神たちは悉く封印されたが、コイツだけは封印から逃れる事が出来た』なんてズルい経歴があったからなのか。その辺りはよく分からない。
けれど羽黒は相変わらずドがつく程のM気質であり、最近では紫苑さんにタクシー代わりにコキ使われては愉悦の涎を垂らして喜んでいる。
けれど、ほんの少しだけ変わった所があるとしたら、それは――
自己主張が以前より派手になったところでしょうか。
私は必要ないと主張したのですけれど、羽黒は今回の『クトゥルフ神話襲撃事件』に対する報復行動を独断で行ってきたのです。
「若葉様を害しておいてお咎めなしという訳には参りません。ちょっと懲らしめてくるだけなので御座います」
といって消え、帰ってきと思ったらテレビで『米、バージニア州で地震発生』というテロップが流れ始めた所でした。
「えぇ、これですこれ」
まるで面白かった映画を紹介するかのように上機嫌で答える羽黒。
「どうやったの?」
「ちょっと運動してきただけなので御座います」
羽黒は今回の報復としてバージニア州に局地型の地震を起こしてきたらしい。
「あと、ほんの少々ですがあちらの上の方と話し合いをさせて頂きました。こちらの意向はご理解いただけたかと思うので御座います」
羽黒はそう言ってヴェールの向こうの唇をニタリと曲げて笑ったのだけれど、どのような話し合いをしたのかは答えなかったし、なんだか聞きたくなかったのでそのままにした。
ナイアーラトテップとしての力を得た羽黒。真紅の振袖に白いヴェールは変わらずだけど、その声は女性のようなんだけど男性にも思えたりするようになっちゃったし、口を開けばその中は夜の星空が沸騰して攪拌されたような名状し難き闇を抱える様になっているのは、私と羽黒、2人だけの秘密です。
と格好つけたは良いけれど、多分紫苑さんも知っているんだろうな。
これにて『夕闇カフェの陰陽師』完結となります。
ここまでお付き合い頂き誠にありがとうございました。
この後ささやかな打ち上げ会が催されておりますので、
そちらの方にも是非お立ち寄りくださればと思います。




