文車妖妃 04
見上げる空は既に闇を退け、白く輝きだしている。天と地の狭間から、全てを暖かく照らす太陽が顔を覗かせ始める。
「ママ…日の出です」
若葉の背を支え続けるサンが、そっと若葉に声を掛けた。
「うん――」
「あったかいでぷね」
若葉の膝の上で主人を温め続けていた天色がそれに続く。
「うん――」
「振り返れば町は壊滅。生存者はゼロだけどな」
「マジですか。というかエンディングっぽくっていい雰囲気なのに普通ここで冷酷なツッコミ入れますかね、こんぺいさん」
若葉がそう返すとこんぺいは渋い声でハハハと笑い、
「それだけ言えるって事ぁ完全復活って事だな!若葉ちゃんよ!」
そして前ビレで若葉の頭をグリグリと撫でた。
「よく頑張ったな、若葉ちゃん」
そして、今か今かと待ちわびていたキーホルダー夢見がようやく若葉に声を掛けた。
「あれ?何処かで聞いた、下心を隠しきれないオジサンの声がします!」
「俺俺!夢見だよ!日本一ダンディな葛葉の天才陰陽師!夢見憂だよ」
「死者を騙るオレオレ詐欺って新鮮ですね」
「扱い酷いね?!師匠として愛してくれてたんじゃないの?!」
「愛してるとも慕っているとも好きとも言った記憶がありません」
「あー!きっとさっきの本に仕舞い込んじゃったんだね!大~丈夫だよ!いくら若葉ちゃんが忘れても僕の魂のメモリーには保存されているから!二人でもう一度愛を育もう!」
「相志さん、そのメモカバグってるようなのでカチ割ってもらっていいですか」
「このあと八戸港に投げ捨てようかと思っていましたが」
「あ、そっちの方が面白そうです」
「わー!ごめんごめん!調子に乗ってました!許して!」
その声に若葉はふふふっと笑い、
「冗談ですよ!私を助けるためにあの世から来てくれたんですよね。ありがとうございます、先生!」
そう夢見に声を掛けた。
「せ、先生?」
「はい、私の師匠は紫苑さんなので、夢見さんは先生って事で」
「先生と生徒って禁断のシチュエーションが好みだったのか…ブレザー?それともセーラー服?」
「じゃあ体操着で。やり投げの的にしますね」
「やり投げに的って無いよね?それにホラ!ボク可愛い黒猫キーホルダーにゃん♪」
「ご愁傷さまですキャラ被りです。きっとクロちゃんが破壊します」
「あ……」
誰かがそうひと言漏らして皆が沈黙した。クロちゃんなら普通にやると思ったからであった。
「おそらく事前知識としてラヴクラフトの本を読もうとしたけど読む気になれなかった紫苑さんが呼び戻した…って所でしょうけど」
キレキレの推理を見せる若葉に対し、バツが悪そうに紫苑が言う。
「バレバレですか」
「はい。私の師匠ですから――それにしても夢見さんって、生きている時より欲望剥き出しになってませんか?紫苑さん、きっとこの人紫苑さんの匂いで陶酔してたり握られて昇天しかかってたりしてますよ」
「やれやれ、こっちもバレバレか」
大きく溜息を吐く夢見のキーホルダー。
「はい、私の先生ですから」
そこにいた皆に笑顔が戻っていた。
「それでは、帰りましょうか。私達の『タタリアン』へ――」




