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血戦 07

 1人のエースを確実に潰すにはどうすれば良いか。

 同ランクのエースに迎撃させるか。

 ――否

 大量の凡兵で囲めばいい。

 如何にエースといえど刃も弾丸も気力も体力も有限ではない。

 決して包囲を緩めず継続的に戦闘を仕掛け、全てを枯渇させればいい。

 如何なる強兵といえど、単独で戦況を覆せるものではない――

 ――そんな事を『クトゥルフ』が考えたのかは分からない。

 だが、紫苑と相志は何十、いや何百という『ダゴン』の群れに包囲されていた。

「いかにもアメリカさんらしい物量作戦だけど、程度ってモンがあるでしょ…」

紫苑の腰で飄々としていた夢見も流石に(顔があれば)苦渋の表情を浮かべていた。

「時間が惜しいです。先に行ってください」

しかし相志は動じずに答えた。

「…大丈夫なのか?」

流石に心配になったのか、夢見が相志へと声を掛ける。

「以前こいつ等の仲間に右腕を食い千切られましてね。新しい腕を付けたんです」

「菅原か……なるほどね」

夢見の声に頷く相志。そして、

「奴等を見ると右腕がですね…軋むんですよ」

そう話す相志。表情は方相氏の面で見えないが、その横から僅かに覗く口元には明らかに笑みが浮かんでいる。

「じゃ、先に行ってるぞ。紫苑様は俺に任せてのんびりやってくれ。なんならそのまま死んでくれ」

「終わったらタコパーの支度があるので死んでいられないんです」

「じゃあその前に新しい体を準備してくれ」

「菅原が人型決戦兵器に使う魂を欲しがっていた筈です」

「暴走したり量産されそうで怖いんだが」

「じゃあ若葉さんがガンプラ持ってたと思いますよ」

「壊れるから――却下!」


 そんな夢見の声が開戦の合図となった。


「ディバイディングドライバー!!」

天色がドリルの弾丸と化して『ダゴン』の包囲を物理的に突き破る。大きな姿になったサンが紫苑を背に乗せ、こんぺいと共にその後を疾走する。

「追わせないっ!」

 援護するように相志、天色が突撃した周辺のダゴン数体の足を横薙ぎに斬り飛ばした。密集する中で倒れのた打ち回るダゴン。

 優勢と思われていたダゴン達に一時の混乱が生じた。

 地に倒れ暴れる一匹の首を容易く斬り飛ばし、崩れ落ちた骸に足を掛ける相志。 自分を見つめる一匹に右手を向けて『かかってこい』と手を招いて挑発をしかける。

 憤慨したのか、一匹が雄叫びと共に拳を振り下ろす。だがその速度も先に切り捨てたダゴン同様、尋常の速さではない。

 だが相志はその速度を越え、ダゴンの拳が地面を叩き付ける前にその腕を肩口から斬り飛ばした。そのまま相手の膝を駆け上がりながら首を一閃――

 どうと倒れるダゴンの骸の背に蜻蛉を切って降り立つ相志。


「お前らは全て僕が斬る」


その時、相志の左脚が大きな腕に掴まれた。

視線を向けるとすぐ背後――先程首を斬り落とされた筈のダゴンが相志の脚を掴んでいた。切り落とした筈の首の切断面が互いを求め合う様ににゅるにゅると触手のように肉芽を伸ばしもう一度ひとつになろうとしていた。

 首をブラブラさせながらも相志を掴んだ腕を振りかぶる。そのまま力任せにアスファルトへ叩き付けようとして――

相志を掴んだ手首がズルリとズレた。相志はそのままぐるりと回転し、自らを掴んだ腕を他のダゴンの口に放り込んで軽やかに着地した。

「これは()()()()じゃあダメですか…」

軽く周囲を見回すと、天色が脚を抉った個体も傷口は殆ど再生されていた。


「ならば――」

 ふつと太刀の露を払い正面を見据える相志。左手に太刀を持ったまま両手を広げ、右の足を上げ片足で立つ相志。

「――不来方流刀舞 鬼剣舞(おにけんばい)

そして、舞い始めた。

 舞っているようにしか見えなかった。

 左腕が足元から弧を描く。その度にしゃらりんと鈴の音が聞こえ、足を踏み鳴らすたびに力強い太鼓の響きが腹を震わせるような。そんな典雅な舞のようにしか見えなかった。

 だが――

 しゃらりん さらん しゃらりん さらん

 囃子の音のように聞こえるのは(ダゴン)の絶叫。首から噴き出る血を笛の音に、周りを朱に染めながら舞う相志。


 骸の山に舞い降りる美しき黒い影。くるりと回って身を屈める――舞が終わったのか。


 しかし相志はいまだ何百という『ダゴン』の群れに包囲されている事に何ら変わりは無い。相志の剣舞で斬られたダゴンは十数匹程である。

 だが――

 黒い鬼の舞を見ていた深海の王たちは相志へその拳を振り下ろす事も、その圧倒的質量と数の暴力で圧し殺そうともしていなかった。

 何故か――

「どうした?再生しないのが不思議か?」

鬼面の相志が誰とは無く口にした。

「紫苑様からお聞きした。お前達は小説の中から出てきたばかりで赤子同然だと」


 恐怖の異形。永遠の寿命に圧倒的な体躯――実質的な不死。

 それらを“神”より与えられし最凶の生物――の筈であった。

 しかしそれらが今、この男の前で早々に崩れ落ちたのだ。

「いくら再生する身体を持っていたとしても――本当に斬られ死を迎えた事、それを目の当りにした事などあるまい?」

相志が語り、太刀の露を払う。しぃんと鳴る音にダゴン達がビクリと震えた。

「透けて見えるぞ…動揺と…恐怖が」

相志の言葉を侮辱と理解したのか。ダゴン達が一斉に吠えた。恐怖で凍りそうな血を怒りで沸き立たせ、後退りする足を興奮で前に押し出した。

 そして最も単純で野蛮、かつ効果的な戦法を採っていた――圧倒的な兵力と質量差での圧し潰しだ。

 無秩序に襲い掛かる魚の巨人達を目前に、相志は己の胸が熱く鳴り響くのを感じていた。

「不来方相志が貴様らに本物の死と恐怖を教えてやる!」

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