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血戦 06

 街中はその辺の車を拝借して移動した。歩道や道路と言わず夥しい数が転がる『深きもの』の死骸を踏み潰しながら海岸線へと向かう。

 口から泡を吐き、自らの手で両目を抉り出した死体。全身に腫物を出現させて干乾びた死体や、全身を切り刻まれたのであろう()()()を散らばして三枚おろしになった死体――海に近付くにつれ『深きもの』の死体が増え、血と魚の腐った臓物のような臭いが濃密になってゆく。


 そして漸く海が見えてこようかというその時だ。

 内臓を握り潰された悲鳴を霧笛にしたような凄まじい音が眼前から響いてきた。

「生き残りが居たようです。前に一匹居ます」

ハンドルを握り速度を落とさぬまま相志が言う。道路の先に『深きもの』らしき姿が1匹見えていた。

「行け」

助手席の紫苑も動じず応える。

「はい」

相志がアクセルをさらに踏み込む。吼えるエンジン音と死体を踏み潰す音が勢いを増してゆく。

「ん…?ちょっとサイズ感が違くないかい?」

紫苑の腰元で揺れる夢見が疑問を表す。

「…そういえば横の建物より大きいですね」

「違う!奴は『深きもの』じゃない!奴は『ダゴン』だ!」

大きさ――それに気付いた夢見が声を上げる。

「ダゴン?それってシュメールの」

途端に目を輝かせる紫苑。過去に存在した古き神の名前を聞き興奮を隠せなかったのだ。

「そっちじゃありません。『深きもの』の長にして父、クトゥルフを崇拝する『ダゴン秘密教団』のトップと言われる、所謂中ボス的位置付けの」

「…ならいい」

違うと知り途端に興味を失う紫苑。

「あれま」

「実在の神の名を騙るなど烏滸がましいにも程がある。相志、轢き殺してしまえ」

「だってよ相志」

「ではこのまま車をぶつけて放棄します。宜しいですね紫苑様」

「放棄するのか」

「血と脂でブレーキが効きません。それにどうやら相手は10メートル近い背丈があるようです」

「そうか。任せる」

興味を失った所為で投げ遣りな紫苑が言うが早いか、懐からガムテープを取り出し数秒でハンドルとアクセルを固定し終えた相志。失礼しますとシートに座る紫苑の背中と脚に手を回す。

「紫苑様、飛び降ります」

言うが早いか運転席のドアから紫苑を抱えたまま飛び降りた相志。

紫苑を抱えたままくるりと輪を描きふわりと着地する。

 それと同時に前方から自動車のクラッシュ音が響いてきた。

「ごくろう」

いつの間にか相志の首に手を回していた紫苑。何事も無かったように地面に降り立つ。相志は少しだけ厳しい目つきで正面――車をぶつけた相手をひたと見据えていた。

「さすがというか当然と言うか。無傷のようです」

「挨拶代わりにはなったであろう」

「やはり斬らねばいけないようですね」

そう言って、相志は庇のようにしていた面を当て直す。四つ目の鬼面――方相氏の仮面だ。腰に提げた太刀『六方睨・真打』を左で抜き放つ。

「頼むぞ、相志」

式神3匹とその場に待つ紫苑。その言葉に不安は無く安心と――興味が漂っている。


 そして数百メートルの間を置いて睨み合う『深きものの王ダゴン』と『方相氏 不来方相志』

  そして――動いたのは同時。速度も同じ様に見えた。

 だが質量が違う。『ダゴン』はおよそ3階にまで届こうかという背丈と巨体。10m近くはあろう。片や『不来方相志』は180センチと少々。大きさと質量だけを考えれば『ダゴン』の方が圧倒的に有利。燕vsトラックの戦いでは燕に勝ち目は無いのは誰の目にも明らかだ。

 ――だがこの燕には鋭い刃がある。そして鬼をも斬り伏せる技がある。

 互いに一閃を交わし擦違う。

 立ち止まった『ダゴン』の目の前には紫苑の姿があった。このまま『ダゴン』が腕を振るえば如何な陰陽師と言えど一撃で粉砕されるだろう。

 だが紫苑は向こうの相志へとひと言――

「見事です」

とだけ言った。 

 瞬間『ダゴン』の頭頂部から股間にまで朱の線が走ったかと思うと、飛沫をあげて身体が二つに割れ左右へと倒れていったのだ。

 血の雨に一滴も染まる事無く笑みを浮かべ相志を迎える紫苑。

「更に腕を上げたようですね。見事でした」

「いえ、この程度でお褒め頂く訳には参りません」

謙遜するが嬉しい様子を隠しきれない相志にキーホルダーの夢見が声を掛けた。

「俺が生きてた頃より早いな…巫力も上がってる。何をしたんだい?」

「ちょっとショッカーの改造手術を受けてきました」

「平成生まれが何でショッカーを知ってんだよ」

そう言って互いにクスリと笑う二人。

「やっぱりお前は化け物だよ。相志」

「貶してるんですか」

「褒めてんだよ」

「それ、気持ち悪いです」

「素直じゃないなぁ。ほら俺みたいに魂に正直になれよ」

「夢見さんは正直すぎな――」

その時、3匹の式神と相志がほぼ同時に反応した。相志は鞘に戻した太刀の柄に手を掛け、慎重に周囲を窺う。3匹の式神は紫苑と相志を守らんと臨戦態勢を整えている。

「…すまん相志、今の今まで気付かなかった」

こんぺいが悔しそうに呟く。

「いえ、僕もです」

「あぁ。俺もだ――サン、さっき倒した『ダゴン』の死体を調べてみてくれ」

夢見がサンに声を掛ける。

「はい――これは…絶命と同時に発動するよう隠蔽魔術が仕組まれていたようです」

「やられたね…魔術は発動条件や制約を与えればそれだけ術を強力に出来る。隠蔽を仕込んで、気付かぬうちに包囲か…」

「してやられたでぷ…」

隠蔽魔術がその効力を失ったのであろう。紫苑達一行を取り囲むダゴンの姿が水底から浮かび上がってくるようにその姿を現し出した。

 5――10――20――200――

 そして紫苑達を取り囲む『ダゴン』の群れは数百に及ぼうとしていた。

「絶望的とは思わないけど、これは…ちと骨が折れそうだねぇ…」

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