Blood 08
瓦礫の中に残された1人と2匹。
小鳥遊は無力な自分を呪いながら触手――若葉の消えた霧の向こうをしばらく眺めていたが、自分の肩に乗るぬくもりに気が付いて、静かに声を掛けた。
「サンちゃん…」
自分の親を、守護するべき存在を守れなかったのだ。さぞや無念だろう――そっとサンの身体を撫でた。
「大丈夫です。お露さん。まだ終わっていません」
だがサンの口から出たのは諦めではなかった。
「へ?」
「おかあちゃんは必ず僕らが助けるでぷ」
天色も打ちひしがれるどころか再戦に燃えている。
「ちょっとどうしたの?急に」
「あの時ママが『血を舐め取って』って言ってましたよね」
「うんうん」
「その時にママの想いと…『怨み』を受け取ったんです」
「あっ…そうかっ!…血かっ!」
血と怨み――祟りの鍵にして力の源。
「あと、その血を介して僕達に力を分けて下さいました。なので今の僕ら、本気出したらかなり強いと思います」
「天色F91くらい強力になったでぷ」
「その例えがよく分からんのよ」
けどラヴクラフトは何処へ消えたのか見当もつかない。1人と2匹だけでは到底太刀打ち出来る相手ではない。
「とにかく急ごう――羽黒!!」
だから小鳥遊は名を呼んだ。若葉の為に命を懸けるもう一人の名を。
「あなたの主人の一大事よ!とっとと出てきて働きなさい!」
すると、
「若葉様の一大事とお聞きしましたので御座います」
数秒の間も空けずに声が聞こえた。鮮やかな赤い振袖に顔を覆い隠す白いヴェール。若葉の隠れ里『3月2日の道』の管理者、無貌の妖怪『お歯黒べったり』の羽黒が、小鳥遊の横に膝を折り指を揃えて座っていた
「若葉ちゃんがクトゥルフに拉致されたわ。私達を今すぐ『タタリアン』まで連れて行きなさい!」
「それは一大事で御座います」
言い終えるが早いか視界がぐるりと一回転する感覚の後、小鳥遊達は閉店して灯りの消えた『タタリアン』店内に立っていた。
「それではワタクシが紫苑様を。サン様は不来方様をお願いするので御座います」
言うが早いか身を翻す羽黒。紫苑の部屋へと向かったのだろう。
「じゃあ」
「その必要は無いよ、サン」
サンが駆けだそうとしたその時、女性なら蕩けてしまいそうな甘い声が聞こえた。目を向けると私服姿の不来方相志がそこに立っていた。その隣には紫苑の式神である一つ目金魚のこんぺいも居る。
「店内に君たちの気配を感じてね」
「出張組が戻ってきたか――って若葉ちゃんはどこ行った?」
こんぺいが店内を見回している。若葉を探しているのか。
「若葉ちゃんは――連れ去られました」
そして小鳥遊はつい先ほど起きた事を2人に伝えた。